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意地悪なキス [アレクサンドラ・ベネディクト]

SHALOCKMEMO584
意地悪なキス Too Scandalous to Wed 2007」
アレクサンドラ・ベネディクト 桐谷知未





 「情熱のさざめき」のスピンオフ作品で,先の作品にもヒロイン,ミラベルの親友として登場したヘンリエッタ・アシュビーが本作のヒロインです。ミラベルとヘンリエッタの邂逅場面は前作にも描かれていますが,本作でも前作と全く同じ,しかし前後の流れはヘンリエッタの側から描かれているため,デジャヴュのようには感じられず,同じ文章も懐かしさを覚えるように感じるのは,とても面白く感じます。
 さて,本作のヒロイン,ヘンリエッタは,8年も前から一人の男性,姉の夫であるピーターの長兄セバスチャン・ガルブレイスに憧れと恋心を抱き,なんとかセバスチャン(通称セブ)を振り向かせようと苦心惨澹していました。しかし,15歳も年の離れたセブはヘンリエッタを妹として保護しようとはしますが,それ以上の感情はもてないでいます。ところで,5人姉妹の末っ子であるヘンリエッタは,息子の誕生を願っていた父親から男の子として扱われ,愛称もエッタではなく,ヘンリーと呼ばれていたのです。前作で,ミラベル(ベル)がヘンリーと呼ぶのを聞いたダミアンがベルの愛人ではないかと勘違いしたのもうなずけます。しかし,20歳を迎えたヘンリエッタは女性らしいふっくらしたプロポーションと美貌を持ったれっきとした女性に成長していましたので,我が息子よ,ヘンリーよと呼ぶ父親の言葉には,母親も上の4人の姉妹とその連れあいたちにも慣れ親しんだ呼び名だったようです。
 なかなか自分を一人前の女性として見てくれないセバスチャンを,なんとしても振り向かせたいヘンリエッタは,ある引退した高級娼婦マダム・ジャクリーンのもとを訪れ,恋愛の手練手管を教わります。既読のエマ・ワイルズの作品「禁じられた「恋の指南書」」で登場する指南書よりも,さらに具体的な画集と作者本人からの恋のノウハウをもとに,積極的にアタックをかけるヘンリエッタですが,4人の姉たちも,母親も,セバスチャンは「放蕩者」だからあきらめるように口をそろえて言うのでした。さしずめ今なら不良息子と付き合うなということになるのでしょう。ヘンリエッタを応援するのは姉の夫でありセバスチャンの弟でもあるピーターでした。ここでこの姻族関係を考えてみると,ピーターはヘンリエッタの姉の夫ですから,義兄ということになります,セバスチャンはピーターの実兄ですから,ヘンリエッタからしてもすでに義兄ということになります。そのセバスチャンとヘンリエッタが結婚すればヘンリエッタはピーターの義理の姉ということになってしまい,しかもセバスチャンからしてみれば実弟のピーターが義理の兄になってしまうという,なんかぐちゃぐちゃな関係になってしまうのです。
 ともあれ,あるスキャンダルがもとで,セバスチャンはヘンリエッタに結婚を申し込まざるを得ない立場になってしまいます。しかし特別なクラブでセバスチャンが及んでいた行為を目撃してしまったヘンリエッタは,セバスチャンの本性が「放蕩者」であり,その本性は生涯変わらないという思いから,結婚しても指一本触れさせない,という強い決意を抱くことになってしまうという皮肉な関係になってしまいます。それまでセバスチャンを積極的に追いかけてきたヘンリエッタが避けるようになってしまった原因が初めはセバスチャンにはわかりませんでした。しかし,改めて結婚相手としてヘンリエッタを見直してみたセバスチャンは,これまで築かなかったヘンリエッタの魅力に,そして本気で愛するようになった自分に気づきますが,一方で自分が放蕩者であり,放蕩者は一生放蕩者だと自分を避けるヘンリエッタになんとか自分を愛する気持ちをとりもどしてもらうためにいろいろと手を打つのですが・・・。
 敵役として,二人の結婚を結果として世間に認めさせてしまったエマソン卿という間抜けな貴族が登場しますが,普通は小心者の貴族の子弟というのは,当時はイギリス中どこにでもいたのでしょうね。敵役としては少々もの足りませんが,ヒーロー・ヒロインの関係を結果的に後押しする存在としては,ストーリー展開上必要な,狂言回しの役割を果たしているわけで,ここにも作者の作家としての手腕が示されていると思います。


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