愛の逆転劇 [アビー・グリーン]
SHALOCKMEMO1019
「愛の逆転劇 Forgiven but not forgotten?
2013」
アビー・グリーン 山口西夏
前作「情事の身代金」とは一転してゴージャスながら傷つきやすい女性シエーナ・デ・ピエロがヒロインです。復讐譚の本シリーズ中でももっとも復讐色の強い作品ではないでしょうか。憎みつつも別れられなくなってしまうゴージャスな美女シエーナ。かつて父親もシエーナのミスを姉のセリーナを罰することで,言うことをきかせようとするほど,ある意味では大切に壊れ物を扱うように育てられたシエーナ。MB版の表紙のイメージを見ても,「そうそう,こんな感じ」と思わせる整った顔立ちと見事なブロンドの髪,そして抜群のスタイルというのが彼女のイメージです。おそらくモデルにでもなればそれこそ世界を制覇するような成功を収めたでしょう。しかし父の虐待は,肉体的な虐待をセリーナに,心理的な虐待をシエーナにと,複雑かつ巧妙に行われていたようです。そして,イギリスで療養するセリーナの医療費を調達するために2週間の愛人生活を承諾するシエーナ。この悲しい決断をさせたのは,5年前シエーナに裏切られ,職を失ったホテル王アンドレアス・クセナキスというギリシア人男性でした。フランスでホテルマンとして努めていたころ,あるパーティでドレスを汚してしまったシエーナをブティックに案内し,替わりのドレスを試着している試着室で思わずキスしているところをシエーナの父に見つかってしまい,「無理やり襲われた」と嘘をつかれたためにホテルを追い出されて職を失ってしまったアンドレアスは,復讐を誓いホテル王として成功するや,父が行方不明になって経済的に困窮し,ウエイトレスをしているシエーナを見つけ出し,愛人契約を提案するのでした。姉の入院費用を調達するという理由でこの提案を受け入れるシエーナ。はっきりと金額は示されませんがおそらく10万ユーロ(ざっと1400万円)以上は要求したのでしょう。姉の回復には向後1年間の入院が必要となっていたからです(最終的には退院したのはそれから2年半以上先になるのですが)。そして言われるがままにアンドレアスの要求に応えざるを得なくなるシエーナ。入院費用のことは話すことなく,お金で自分を買うようにワザと仕向けたのは,過去の秘密を知られたくないという思いと,アンドレアスを自分の嘘で傷つけてしまった借りを返すためという気持ちも強かったのでした。しかし計画とは異なって本気で互いを求め合ってしまうアンドレアスとシエーナ。この激しくも悲しいロマンスが,2週間を待たずに破綻してしまいます。そして,数ヶ月後,再びホテルでウエイトレスとして働くシエーナを見つけたアンドレアスは,自分の与えたお金で優雅に暮らしていると思っていたシエーナがまた働いていることに驚き,ついに本当のシエーナとセリーナの物語を知ることになるのです。しかもその場には異母兄のデ・マルコとグレイシーも行き会わせていたのでした。シエーナを伴ってギリシアの実家を訪れたアンドレアス。母や妹たち,そしてその子どもたちとの交流を経て,シエーナはアンドレアスに対する自分の愛を再確認するのでした。3部作の中でももっとも悲しく,激しい二人のロマンスですが,運命に翻弄された二人の愛憎が決していやらしくなく,逆に二人を応援したくなる読後感を誘うのは,筆者の筆力の証だと思います。オススメの一作。
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