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一夜に賭けた家なき子 [キャロル・マリネッリ]

SHALOCKMEMO1078
一夜に賭けた家なき子 Princess's Secret Baby
 ホテル・チャッツフィールド 11) 2015」
キャロル・マリネッリ 山本翔子





始めに作者キャロル・マリネッリの作者プロフィールですが,「イギリスで看護教育を受け,救急外来に長年勤務」とあります。その後「バックパックを背負っての旅行中に」夫君と出会い,「オーストラリアに移り住」み,「彼女にとって第二の故郷」となっているそうです。本シリーズでは,チャッツフィールド・ホテルが世界各地にあり,それぞれの国民性や風景が生かされている感じがありますが,どの作品でも上流階級とそうでない人々という階層の違いが生活の違いに表れ,国境や民族という縦の分かれ目とは異なり,いわゆる横の分かれ目とも言うべき血筋や財力と権力が結びつき,持てるものが必ずしも幸せまで手に入れるわけではなく,家族や日常を大切にする普通の人々の暮らしが幸せに結びつくという構図があるように思います。バックパッカーとしての作者の経験が,このようなストーリーに生かされているようにも感じました。本作の終盤にヒーローのジェームズ・チャッツフィールドとヒロインのスルハーディ国王女レイラ・アル=アルマルが「世界一小さな結婚式」を挙げる場面が出てきます。ニューヨークのセントラルパークにある何の変哲もないベンチで挙げられた結婚式。「ジョギングをしている人たちを捕まえて式の立ち会いを頼むと,みんな喜んで応じてくれた。簡素だけれど,二人には何より大切な結婚式だった。」その日はレイラの臨月であり,なかなかこの世に顔を出そうとしない赤ん坊も強くお腹を蹴るような日でした。投資家で富豪のジェームズ,王女のレイラという世の人のうらやむ社会的地位のある二人がなぜこのような簡素な結婚式を挙げることになったのか。共通点は二人とも両親から認められず,特にヒロインの母は亡くなったレイラの姉のジャスミンとレイラをことごとく比較しては生き残ったレイラを冷遇し,一度も自分の子供に触れたことがないほど,そして自分の子供はジャスミン一人であり,替わりにお前が死ねば良かったと言い放つほどレイラを憎んでいたのです。つまり愛を知らずに,愛されることを知らずに24歳まで生きてきたレイラ。次々と異なる女性に子供を産ませ,愛情を注ごうとしなかった父マイケル・チャッツフィールドに反抗し,家業を手伝おうとしないジェームズもまた親から見放された存在だったのです。心の底では親に認めて欲しい,愛して欲しいと願いながら大人になる現在まで,どんなに努力しても果たせなかった二人が,親となり,二人の子供には深い愛情を注いでいきたいと願って結びついていくことは,本作の大きなテーマです。小太りだった少女時代を過ぎ,ジェームズから見ると絶世の美女に思えるレイラ。この「醜いアヒルの子」的なレイラがハヌマーンという民族楽器を伴奏に美しくも心揺さぶる歌を歌う,そしてレストランでの演奏が最終日になる夜にジェームズが演奏を見に行き,心から感動を覚えるシーンや,ホテル住まいでスタッフたちに王女然としてきつく当たっていたレイラがジェームズの影響で少しずつ感謝の言葉を言い添えるように変化していく姿などに,次第に人間らしく人を大切にする気持ちを理解していくレイラの成長にジェームズの愛が大きくかかわっていくところなど,ヒューマンな作品に仕上がっています。悩めるレイラに向けてジャームズが掛けた言葉「君のお母さんは悪い女王なんだ。邪悪な女王だ。娘が産まれたら,ぼくはこのおとぎ話を聞かせてあげるつもりだ。そして君が望まない限り,君は二度と邪悪な女王の声を聞かなくてもいいし,顔も見なくていい。」はレイラを大切に思うジェームズの真心がこもった言葉で,後にレイラも「両親のことは本当にもうどうでもいいの。今の私にはれっきとした家族がいるんですもの。」と言い切れるように心が満たされていきます。そして生まれてきた二人の子供にどんな名前を付けるかが,本作の本当の意味でのキーワードになっていきます。そして邦題の「一夜に賭けた家なき子」は原題の「王女の秘密の赤ちゃん」よりは,童話をイメージさせるいいタイトルだと思います。


タグ:ロマンス
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