禁じられた思い [キャサリン・アーチャー]
SHALOCKMEMO441
「禁じられた思い Rose Among Thorns 1992」
キャサリン・アーチャー Catherine Archer 中村真理子
時はイギリスのノルマン・コンクエスト初期のころ,11世紀中ごろのイングランドが舞台です。当時は,ノルマン人,つまり北欧のバイキングと呼ばれる人たちが,中部ヨーロッパの沿岸各地を征服し,イギリスにもノルマン人の王朝を建てたころということになるでしょうか。このあたりの歴史的背景については,ヒストリカル・ロマンスの愛読者の方々は,すでにご承知のことと思いますが,本書を初めて手にされた方のためには,ネケトさんの「世界帝王事典」というサイトがとても参考になるのではないかと思います。また,当時の人々の衣装や生活の様子をとても詳しく説明しているサイトとして,私がいつも参考にさせていただいているのは,「Fashion-Era」というサイトです。ぜひ一度覗いて見られるといいと思います。
さて,本書の原題「Rose Among Thorns」は,「ソーン家兄弟に挟まれたローズ」とでもなるでしょうか。本書の内容を実に見事にあらわした表題だと思います。ノルマン人のソーン家兄弟に征服されたサクソン族の領主の娘ローズの,ソーン家の兄,ユベールの婚約者でありながら,弟ガストンと相思相愛の仲になってしまうという皮肉な運命。また,ローズの従姉妹エルスピスが,宿敵であるソーン家の兄ユベールと相思相愛の仲になってしまい,ユベールの子を宿していくという,民族同士の抗争と不思議な運命や愛の間で揺れ動く二組の男女の心の機微を,余すところなく描ききったストーリーとプロットの妙。これはもう,一気読みしかありません。
私もここのところ,ちょっとヒストリカル・ロマンスから心が離れかけていたのですが,まさに歴史ものの面白さに改めて引き戻された一作になりました。
本書はすでにHS-085として2000年4月に発行されているものの文庫化ですので,すでにお読みの方も多いことと思われますが,是非の再読をお勧めしたい一作です。
干し草をかぶった乙女 [キャサリン・アーチャー]
SHALOCKMEMO329
「干し草をかぶった乙女 Autumn's Bride 2001」
キャサリン・アーチャー Catherine Archer 石川園枝
家具職人の娘アナリースは、夜の森で瀕死の若者を見つけ、家へ連れ帰り必死に看病をした。その甲斐あって若者は日ましによくなるが、決して素性を明かそうとせず、アナリースの父に家具作りの手ほどきを受けたいと言い出した。
身分制度があろうがなかろうか,「身分」というのは自分の身をどのように処し,分をわきまえているかということであり,中世も現代も違わないのだということをテーマとして発信してくれる1冊。
アナリースの父ジョゼフ・スタナップのように家具職人=親方はマイスターと呼ばれ世間の尊敬を浴びていたのはヨーロッパの方だろうが,おそらく騎士階級と同じように世間から一目置かれる存在であったのではないか。貴族からの注文によって生活の糧を得ていたようだ。しかし,自尊心,仕事への厳しさと他人への思いやりを持つ人が,身近にクラモン男爵にように悪事をはたらくような貴族がいれば,貴族すべてに悪意を抱いてしまうのも無理ないではないか。
ブラッケンムーア男爵の弟で騎士のケンドランが家具職人の娘アナリースに自分の身分を隠したのはそんな心理が働いたからだった。
そして,敵役のダニエルが実に陰湿。まさに敵役にふさわしい人物造型だった。