ため息は愛のはじまり [サリー・マッケンジー]
SHALOCKMEMO519
「ため息は愛のはじまり(華麗なる貴族1) The Naked Duke (Naked Nobility 1) 2005」
サリー・マッケンジー 佐藤志緒
また新たなヒストリカル作家の作品です。小学生の頃から作家になることを夢見ていながら果たせず,子育てが終わった後にロマンスを書き始めたサリー・マッケンジーの初めての作品が,本作品です。
「華麗なる貴族」シリーズ(原作ではNaked Nobility)の幕開けでもある本作品は,イギリスの公爵が,結婚をせかされ,偶然出会ったアメリカ人の女性を花嫁として迎えようとするリージェンシーものです。
斜麓駆の最近の読了本には,アメリカ人の娘とイギリスの男性貴族のロマンスが多く,こんなにも同じような設定でロマンスが書かれているのだなあと,改めて驚いているのですが,本作ではさらに,ヒーローの複雑な家庭事情と,ミステリー風味を付け加えるために,「悪魔」と位置づけられるヒーローのいとこ,リチャードの存在がクローズアップされ,善と悪の対立軸も重要なストーリー展開上の柱となっている点が,新鮮に感じられます。
さて,伯爵の弟を父に持つサラ・ハミルトンがヒロインですが,父の遺言でイギリスの伯父を訪ねるように言われ,イギリスへとやってきます。明日は伯父の家を訪問するというところまでやってきたサラは,訪問の準備をするために,近くの宿に1泊するのですが,女性一人の旅行客ということで宿の主人はなかなか泊めてくれません。その時,宿の主人を説得してくれた男性がサラの運命の人となります。実はすでに伯父は亡くなっており,従兄弟のロバート(ロビー)が爵位を継いでいたのですが,そのロビーの親友,アルヴォード公爵ジェームズが,娼婦と勘違いしてサラを泊めてしまったのです。しかもベッドに一緒に入ってしまったのでした。勘違いから起こったこととは言え,翌朝,ジェームズの伯母レディ・クラディスとその友人レディ・アマンダに見つかってしまった二人は,さて,どうするのでしょう。こんなとき,この時代では,紳士であれば責任を取って女性と結婚するのが,互いの名誉を傷つけないために最低限必要なこととされていました。現代のわれわれになかなか理解できないのは,この,名誉や風聞といった当時の人々の考え方です。もっとも,スキャンダルにはめっぽう弱い階層や職業の方々は,現代でもたくさんいるとは思いますが・・・。
サラは,あっという間にレディ・クラディス,レディ・アマンダ,そしてジェームズの妹リジーの心をとりこにし,なかなか身持ちを固めようとしないジェームズと,その求婚を承諾しようとしないサラの気持ちを後押ししようとします。そこに敵役として登場するのはジェームズの従兄弟のリチャードです。公爵位を継げなかったのは,ジェームズの父がリチャードの父の邪魔をしたからだという謂れのない逆恨みから,ジェームズに幼い頃から悪意を持って付きまとっている,邪悪の権化のようなリチャードの数々の悪巧みの中にサラも標的とされてしまい,危うい状況になります。
そのような状況にも気丈にしかも堂々と立ち向かうサラのアメリカ育ちらしいたくましさと,本当の愛に二人が気付いていく展開が本書の読みどころです。さらに,レディ・グラディスとレディ・アマンダのちょっとした活躍に,読者は喝采を送りたくなりますし,まさに貴族恐るべしと思わせる行動も隠し味として出てきます。
期待されるシリーズの幕開けです。
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