少女でもなく淑女でもなく [キャロル・モーティマー]
SHALOCKMEMO884
「少女でも淑女でもなく Perfect Partner 1982」
キャロル・モーティマー 上村悦子
親友メラニー,マイケル夫妻の家でのパーティでジュリエットは辛口書評家ジェイク・マシューズに出会います。自分がキャロライン・マイルズというペンネームの作家であることはその日は黙っていました。このことが次々に二人の関係に波乱を巻き起こします。何気ないあるきっかけでヒロインに災厄が襲い,それがロマンスの始まりになるというストーリー展開の得意なキャロル・モーティマーらしく,ストーリーの楽しめる作品です。本作の特徴はそれよりも,自立心旺盛で昼は少女,夜は淑女として様々な顔を見せるジュリエットが母との確執をいかに克服し,大人の女性として成長していくかという成長譚でもあり,それにジェイクが手を貸すという展開になっている点です。本当は惹かれているのに,わざと冷たい言い方しか出来ないジュリエットの背中を押してジェイクとの関係を深めていこうとする親友メラニーのお節介な役柄も捨てがたい魅力があります。そしてジュリエットの父の死後次々に若い男性との結婚をしていく母の隠された過去も,途中でなんとなく想像はつくものの,母の人生が自分の人生とリンクし,やはり愛が幸せに生きる大きな要素になることに気づくことで人間的に成長していくというキャロルの主張には,なるほどと思わせる説得力があり,エキセントリックなジュリエットの人物造型が,本作ではこうでなければならないということが自然に見えてくるのは,やはり作者の筆力のすばらしさだと言えます。作中ジュリエットの作品三部作が,隠し味として本作の深みを増しています。1982年の作品ですが,全く古さを感じさせない絶品です。
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