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屈辱の楽園で [アン・メイザー]

SHALOCKMEMO967
屈辱の楽園で Dangerous Rhapsody 1969」
アン・メイザー 上村悦子





8年前に自分を捨てた女性を罰するために,彼女の兄の不始末をもみ消す代わりに,盲目の自分の娘を世話するためにカリブ海の島に行くように,という情け容赦ない条件を付けたイタリア系の富豪デイモン・ソーン。かつてはデイモンの会社のタイピストだったエマ・ハーディングはその後看護師資格を取り,まもなく看護師長になるまでにキャリアを積んできたものの,デイモンの付けた条件を呑まなければ兄のジョニーは刑務所に入れられてしまうとわかっていて,断ることは出来なかったのです。原題は「危険な狂詩曲」。「危険な」の部分は,デイモンが関わってしまった東洋系シンジケートがらみの東洋系女性ツァイ・ペン・ランが自分に託したマイクロフィルムを,気づかないうちに自分が身に付けてしまっていたということを13章14章で家族が襲われるところで明らかにされます。でもこれはあくまでサイドストーリー。中心になるのはデイモンがエマから捨てられたと思い込んでいたのは,実はエマがデイモンを愛するあまり,なんの取り柄もない自分がデイモンとの結婚でデイモンが世間から批判されるのが耐えられなかったからだということを,いつ打ち明けるかということと,デイモンの娘のアナベルが失明した理由が心理的なもので,直る可能性が高いということにエマが気づき,それをデイモンが信じてアナベルと父娘の関係を親密に出来るかということでした。
本作は1969年の作品で,携帯もコンピュータもない時代。電話は勿論ありますが,誰もが電話を使える時代ではなかったようで,電報で連絡を取り合うというのも,ひどく時代を感じさせます。しかしストーリーの展開には全く支障がなく,時代を超えてテーマが生き生きと語られるところ,そしてちょっと古風な人々の考え方が逆に新鮮に感じられる点で面白い作品です。ちょっとロマサスがかった純愛ロマンスという感じですね。アン・メイザーの作品はすっかり翻訳が出ているわけではなく,本作が未訳だったのが意外でした。ちょっと調べてみたら,この年のヒューゴ-賞には,シマックの「ノヴァ」が,ネビュラ賞にはフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見る」が選ばれていたんですね。ロマンス作品ではありませんが,どちらもSFの古典的名作ですね。


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