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時を超えた恋人 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO538
時を超えた恋人 Thirty Nights with a Highland Husband 2007」
メリッサ・メイヒュー Melissa Mayhue melissamayhue.com 瀧川 隆子





コロラド州在住のヒストリカル作家メリッサ・メイヒューの初邦訳作品です。本作は「グレンの娘たち Daughters of the Glen」というシリーズの第1作にもあたり,2007年6月に上梓されました。その後このシリーズは2009年までに全5作となり,今月第6作目が発表されたもようです。すべて,ハイランダーもの。
第1作の本書では,現代のデンヴァーに住むヒロイン,ケイトリン・コリエルのもとに,緑の光とともに13世紀からヒーローのコナー・マキアナンが現れ,自分と仮の結婚をしてくれるよう依頼し,ちょうど婚約者の不義に傷ついていたケイトリン(ケイト)はコナーとともに1272年のスコットランドに飛翔するという設定です。所謂タイムトラベルものなのですが,その方法が妖精の一族の魔法という,スコットランドらしいところが特色です。
ケイトリン(愛称ケイト)とコナーは初めは便宜的な結婚と割り切っているのですが,現代女性にとって13世紀の男性の男らしさには,粗暴さとは異なるたくましさを感じるのでしょう。ヒロインの方が初めにヒーローを愛してしまいます。コナーは母に裏切られたという思いがあり,女性を心から信頼できずにいるのですが,ケイトのちょっとしさ言動に尊敬と愛情を抱くのでした。
コナーの妹,マリィ,叔母のロザリン,親友のロバートなど,脇役たちとの会話や行動にユーモアが感じられ,愛犬ビーストの忠犬らしさにもほろりとさせられる好著です。


愛は陽炎のごとく [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO537
愛は陽炎のごとく The Duke of Shadows 2008」
メレディス・デュラン Meredith Duran meredithduran.com 大杉ゆみえ





うーっ,さむい!ついに真冬日になった今日一日でした。しかし本書の舞台はインド。
インド人とイギリス人の両方の血筋を持つイギリスの貴族ホールデンゾーア公爵ジュリアン・シンクレアがヒーローです。どちらの社会にも完全には受け入れられない19世紀中半のイギリス。
セポイと呼ばれるインド人傭兵の反乱がまさに起ころうとしている歴史的な大場面に,イギリスから結婚のためにやってくる途中船舶事故で両親が海にのみこまれ,一人生き残ったエマライン(エマ)・マーティンがヒロインです。
学校の歴史の授業では「セポイの大乱」と習った記憶があるのですが,「インド大反乱」とか,「シパーヒーの乱」とかいうようです。また,インド側からは「第一次インド独立戦争」とも。
物語の舞台は,デリーで反乱に遭遇した二人が,乱を逃れてカルカッタにのがれる途中分かれ離れになり,4年後にイギリスで再会します。絵が好きなエマはインドでの血なまぐさい体験を絵にしますが,その絵が認められ,王立美術館に飾られたり,高額で買い取られたりします。しかし,その絵に何気なく書いていった文字が,まとめて読まれたら,実は大変な陰謀を暴く文になってしまうという謎が隠されていたのです。
歴史ロマンと,パズルミステリと,アドヴェンチャーとロマンスと男同士の葛藤,さらには女同士の葛藤など,とにかくいろんなものがゴチャマチャとインドらしくブレンドされた秀作です。
新人ヒストリカル作家の期待の第1作,ついに登場という感じです。


最高の贈り物 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO529
最高の贈り物 I Will (Wish List) 2001」
リサ・クレイパス Lisa Kleypas lisakleypas.com 平林 祥





 放蕩の限りを尽くしている貴族の息子が,父親から遺産を相続できなくなると知ったら・・・
 そこからさまざまな物語が紡ぎだされるだろうと思いますが,まずは裕福な女性と結婚しようとする,父親に取り入って生まれ変わった自分を見てもらい遺言を書き変えてもらう,などなどこれまでも多くのストーリーが書かれたと思います。放蕩息子の側からすると,自分が生まれ変わるのがもっとも難しいことでしょう。しかし,自分が全力をかけて一生愛することのできる人ができたなら,それも可能になるのではないでしょうか。本作は簡単にいってしまえば,そんな物語です。
 リサ・クレイパスはライムブックスですでに18冊の訳書が出ていますし,この12月には19冊目,さらにラグジュアリーロマンスというレーベルで本書が出されています。中短編としては本書が初訳になるのかもしれません。26歳のオールドミス(当時は),キャロラインにロチェスター家の嫡男(腹違いの兄がいますが),ドレーク卿から,偽装結婚を持ち込まれます。とにかく,死にかけた父から爵位は譲るが遺産は残さないと言われたドレーク卿が,身持ちが固く,しっかり者のように見えるキャロラインと付き合っていることを示せば,父も思いなおしてくれるだろうということから,キャロラインの弟で放蕩もの仲間のケイドを通じて話を持ちかけます。代わりに成功すればケイドの借金を肩代わりしようという条件で。
 はじめは互いに偽装のお付き合いと割り切っていたものの,次第に互いの美点,本来の姿に気付き,やがて互いに愛情を感じるようになります。そして,ロチェスター伯爵の死後,ドレーク卿からの結婚の申し込みを待っていたキャロラインのもとに届いた知らせは,ドレーク卿がキャロラインの従姉妹のジュリアーヌと婚約したというものでした。なぜそんなことに・・・。二人の関係は思わぬ方向に。
 このあたりのひねり具合は,さすがストーリーテラー,リサ・クレイパスと思わせます。
 スマートで洒落たストーリーですんなり楽しめる良篇です。


あのキスの記憶 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO514
あのキスの記憶 A Lover's Kiss 2008」
マーガレット・ムーア Margaret Moore margaretmoore.com 飯原裕美





 マーガレット・ムーアの作品は本当に久しぶりに読了しました。ほぼ2年半ぶりです。
 どの作品も圧倒的な力で心に残るものを常に書き続けている作者ですが,本作はリージェンシーもので,ちょっと軽めの感じがしました。というのも,ヒーローのダグラス・ドゥルーリー卿(Sir Douglas Drury)が,これまでの作品のような自信に満ち溢れた,運命に立ち向かっていく前向きなヒーローではなく,ちょっとナイーヴで,運命を呪い,周囲の人々に表面的には自信に満ち溢れているようでも,なにかガラスのように崩れてしまいそうな雰囲気が漂っているからだと感じられました。
 さて,本作ですが,ロンドンの下町でお針子をしているフランス娘ジュリエット・ベルジュリンヌ(Juliette Bergerine)は,夜半に取っ組み合うような音を聞き,一人の男性が四人の風体が宜しからぬ男たちに襲われているところを目撃し,下宿屋の窓からジャガイモを投げつけて男たちを追い払います。さらに襲われていた男性を自分の部屋に引き上げ,介抱します。時恰も1819年。ワーテルローの戦いから間もなく,ロンドンでの治安もあまり感心しない時代。フランス人である自分はイギリス人から憎まれていると感じているジュリエットは,兄を探すためにロンドンでお針子をしながら情報を集めていたのでした。ジュリエットの部屋のベッドに助け上げられたサー・ドゥルーリーは,意識が混沌としている中で,ジュリエットの唇を奪い,マ・シェリーとフランス語でささやきかけ,そのまま意識を失ってしまいます。これが二人の出会いでした。サー・ドゥルーリーは准男爵で法廷で刑事事件の弁護士として広く名を知られた名士であり,さらにはロンドン社交界に複数の愛人を持っていることでも知られるドンファンでした。また,蜘蛛の研究書で知られるブロムウェル卿(愛称バギー)や,親しい友人のスマイス=メドウェイ夫妻など周囲の人々が目覚しい活躍をします。
 サー・ダグラスが襲われた後,ジュリエットも謎の男に脅かされます。二人を襲った男たちには共通点があることを危惧し,二人はブロムウェル卿の屋敷にかくまわれ,ボウ街の捕り手たちに調査を依頼しますが,なかなか犯人が見つかりません。そこで,ジュリエットの案で二人が婚約したという噂を社交界に流し,敵をおびき寄せることになります。サー・ドゥルーリーは,はじめはその案に賛成できなかったのですが,その頃には二人の間には互いへの想いが強まっていたのでしょう。二人はいとこ同士と偽り作戦を開始します。その後は,お約束どおりなかなか作戦がうまくいかず何度か二人とも危ない目にあったり,互いの瞳の中に気持ちを読みあったりするのですが,ジュリエットの兄の捜索と二人を襲った悪漢の捜査の両面の謎はなかなか手がかりがつかめません。しかし,二つの謎があるところで絡み合い,究極の危機がやってきます。二人はバギーやスマイス=メドウェイ夫妻の助けを借りて,この危機を乗り切ろうとするのですが・・・。
 互いの運命的な出会いから,過去に二人の運命はすでに出会っていたこと,そして運命より愛の力が強いことを証明した作品です。前半では,これまでの作者のヒーローとは異なるヒーロー像を感じていた斜麓駆ですが,後半はやっぱり困難に負けずに力強く立ち向かうヒーローと,自分の運命に立ち向かっていくりりしいヒロインの姿が描かれ,勇気を与えられる一作に仕上がっています。


秘密の愛人関係 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO511
秘密の愛人関係 The Outrageous Lady Felsham 2008 (Scandalous Ravenhursts 2)」
ルイーズ・アレン Louise Allen louiseallenregency.co.uk 下山由美





愛人と逃避行」に続く第2弾。
 前作のヒーロー,ジャックの妹,ベリンダ(愛称ベル)がヒロインです。こうしてみると,邦訳のシリーズ名「スキャンダラスな貴族たち」というより,やはり原作のシリーズ名「Scandalous Ravenhursts」(スキャンダラスなレイヴンハースト家)のほうが,しっくりきますね。
 さて,本書のヒロイン,ベルは,夫を亡くし,喪が明けましたが,二度と結婚する気はなく,それならばと愛人を持とうと思っています。深夜,バイロン卿の詩集を読んでいたそんなとき,泥酔したハンサムな男性が突然部屋に入ってきて,シロクマのホラスの上でくつろいでいたベルの上に倒れてしまいます。この男性が,以前の家の持ち主でワーテルローの英雄,デレム子爵アッシュ・レイナードでした。そのまま眠り込んで翌朝を迎えたアッシュでしたが,彼に向かってベルは愛人になってくれないかとお願いするのです。前作でもジャックと大公妃の仲を取り持つため思い切った行動をしたベルですが,本書でも,かなり奔放な性格を表しています。互いに一目で惹かれあったベルとアッシュですが,互いに肉体的には惹かれているものの,結婚までは思い至らず,何度か逢瀬を重ねていきます。
 レイヴンハースト家のベルの従姉妹のエリノアは,常に目立たない服装を好み,母親のいいなりになっていて社交界にデビューすることなど思いもしない娘ですが,人のこころの機微には敏感で,ベルがアッシュを,アッシュもベルを愛し始めていることに気づきます。愛のある結婚というテーマは,リージェンシー・ロマンスではおきまりの約束事ですが,エリノアは,二人の思いを互いに気づかせるため重要な役割を果たします。
 さて,さて,二人のロマンスはさておき,本書のもう一つのテーマは,ワーテルローで身体的,精神的に傷を負った元兵士たちが,イギリス社会の中で行き場をなくし,大きな社会問題となっていたということです。英雄と呼ばれるアッシュも,戦いのことは,家族には話したがらないですし,さらには命からがら帰郷した元兵卒たちは職もなく,体と心の病を抱えてその日暮らしの生活をせざるを得ない状況に追い込まれていました。ベルはアッシュが戦のことを話したがらないことを見抜き,これらの人々が自立して生活していくために支援委員会を作り,財政的,精神的支援をしようとします。欧米では,貴族がこのような慈善事業を起こして困っている人々を救おうとすることが,日常の中に息づいていることが本書からも読み取れます。持てる者が,持たざる者に手をさしのべることが常識となっている社会。持てる者と持たざる者が社会に存在していることを認め,援助をすることが自然な社会というのが,成熟した市民社会となるのだろうなぁと思わせる展開です。
 ベルは,いわゆる精神的に成長を遂げていくビルドゥングス・ロマンのヒロインではありませんが,それなりに愛らしく,しかも愛を成就させようと賢明に生きる女性の一人です。


愛人と逃避行 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO510
愛人と逃避行 The Dangerous Mr Ryder 2008 (Scandalous Ravenhursts 1)」
ルイーズ・アレン Louise Allen louiseallenregency.co.uk 石川園枝





 ルイーズ・アレンはイギリスのベドフォードシャーに住むリージェンシー作家で,フランセスカ・ショー名義でもヒストリカル作品を発表しています。ショー名義では97年に訳が出た「忘れじの君」始め,4冊のヒストリカル作品を,アレン名義では2007年に訳が出た「甘き異国の香り(「砂漠で見る夢」所収)を始め6冊の計10冊が邦訳されています。
 本書は「スキャンダラスな貴族たち」というシリーズの幕開けの巻となりますが,ヨーロッパの小国の大公妃の冒険譚ということで,最近読了したアン・グレイシーの「麗しのプリンセスにくちづけを」と設定がよく似ており,ナポレオンの登場によって,ヨーロッパの大陸側では大きな政治的な変化が各地で起こり,貴族と平民との軋轢や女性の自立の機運などが次第に高まっていく時代だったのだなということが実感されます。
 さて,本書のヒロインはイギリスとフランスのハーフであるエヴァリン(エヴァ)と伯爵家の次男であり,イギリス政府のスパイを務める冒険家ジャックことセバスチャン(ジョン・ライダー)の冒険行です。嫁ぎ先であるモブール公国では,事故に見せかけた危険や毒殺に晒されていたモブール大公妃エヴァリン・クレール・エリザベッタ・メラニー・ニコル・ラ・ジャボット・ド・モブールの元に,イギリスの摂政皇太子の庇護を受け,イートン校に通う皇太子フレディが,最近,数回危険な目に遭っていると,夜中に窓から忍び込んできたハンサムな男性が告げます。引き締まった体,黒髪と濃い灰色の目を持ったジャック・ライダーがその人でした。夫を亡くしてから二年間26歳になったエヴァは,初め,このような知らせが信じられませんでしたが,母子にしかわからない暗号のような会話を告げられ,ジャックが息子と会ってその危険を知らせに来たことを知ります。一方,イギリス政府の依頼で,皇太子の母親をイギリスに連れてくる密命を帯びてモブールにやってきたジャックですが,大公妃が濃い茶色の髪で,整った目鼻立ち,美しい弧を描くほっそりした眉とふっくらした唇を持っていることを知り,こんな美しい人だと想像もしていなかったため,自分を押さえて,イギリスまで無事にたどり着けるか不安になります。イギリス政府からは大公妃が,理知的で頑固で高慢な上に,自立心が強く気むずかしいと聞かされていたので,てっきり年齢を経た女性だとばかり思っていたのでした。実はこの瞬間,二人は本当の恋に落ちていたのです。しかし,反ナポレオンの影響力を持つ国の大公妃と,一介のスパイとの恋は許されるはずはなく,イギリスへの旅の途中,他人の目をくらますために夫婦と名乗って同室で過ごす晩が幾日かあったにもかかわらず,ベッドの中央に枕をおいて,互いに自分の気持ちを偽って過ごしていたのです。しかし,いよいよイギリスへも近づいたある晩,野宿の寝袋で,二人はついに互いの気持ちを偽ることができなくなってしまうのです。
 しかし,無事イギリスに着き,息子と感動の再会を果たしたエヴァの元をジャックは別れも告げずに去っていくのでした。二人の愛は成就するのでしょうか。ここで,後の作品にも登場するジャックの妹ベリンダ(ベル)が登場します。エヴァ以上に気が強く兄思いのベルとエヴァはすぐに同じ思いを持ちます。ジャックがエヴァとの愛に気づかないでいることを・・・。そして,ついにはエヴァは息子を連れてモブールに帰るために旅立ってしまいます。二人の愛は実るのでしょうか。
 自尊心や地位,男女の立場の違い,さらには国境など,さまざまな違いを乗り越えて愛が成就されるのか。最後には感動の大団円が待っています。




愛の眠りは琥珀色 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO499
愛の眠りは琥珀色 The Marriage Bed 2005 (Seduction 3)」
ローラ・リー・ガーク Laura Lee Guhrke lauraleeguhrke.com 旦 紀子





愛の調べは翡翠色(SHALOCKMEMO463)」につづく,Seduction(ギルティ・シリーズ)の第3作です。
原書表紙ではベッドが中心のイラストになっていますが,ラズベリーブックスの本書の表紙は,前作につづき金髪の美女を中心に描かれています。また,このシリーズを通して登場し,前作のヒーローでもあった作曲家ディラン・ムーアは本作にも登場し,本作のヒーロー・ヒロインが訪れるホールではディランの交響曲が,ディラン自身の指揮で演奏される場面がでてきます。これは,前作でディランが苦心しながら作り上げた例の曲なのでしょうか。そうだとすると,かなり前作との連作の要素が強い作品のような気がします。また,ディランがヒーローのジョン・ハモンドに「とにかく提案だけでもしてみろよ。友だちになるように説得できれば,ふたりがうまくやっていくうえで絶対に助けになるはずだ」とアドバイスするところなどは,前作を呼んだ人は,おもわずにんまりするところですね。斜麓駆は第1作は未読なのですが,本作に頻繁に登場するヒロインヴァイオラ・ハモンドの兄夫婦,アントニーとダフネのコートランド夫妻が主人公であることは明らかです。
さて,本作ですが,子爵のジョン・ハモンドはヒロイン,ヴァイオラと結婚していますが,数年間にわたり別居し,他の女性との浮き名を流し続け,ハモンド夫妻は社交界では同じ場所には決していないということが知れ渡っています。しかし,ジョンの領地を管理していた親友とその子供が病死したことにより,領地を任せたくない親類の手に渡ってしまう可能性が出てきました。それを阻止するには,ジョン自身に跡継ぎが生まれなくてはなりません。そこで数年間の別居をしていた妻のヴァイオラとの関係を修復し,なんとしても跡継ぎをもうけることを決意しました。しかし,ここ数年,何人もの愛人とくっつき,別れるということを繰り返してきたジョンを,ヴァイオラが許すはずもありません。二人の結婚当初は関係もよく,互いの好みもジョンはすっかり覚えていました。ヴァイオラとベッドをともにするため,ジョンはじっくりとあらゆる手段でヴァイオラの気持ちをこちらに向けようとするのですが・・・
全編を通じて大して大きな出来事が起きるわけではありません。ロンドンの社交界のとても狭い世界でのお話ですが,日常の中で起こるちょっとした出来事がいくつか登場し,ヴァイオラとジョンの気持ちの移り変わりを中心に物語は進行します。とても静かな感じのストーリー展開ですが,ヴァイオラの気持ちの変化,ジョンが次々に繰り出す新たな誘惑の手,そんな小さなことが,次第に読者をヒロインよりもヒーローの涙ぐましい努力の方に感情移入していくことになります。
やがて,おきまりの,欲望よりも愛,そしてその証明というロマンス小説の永遠のテーマ,さらには,愛に目覚め,ついにはジョンと愛人との間の子供を育てようとするヴァイオラの健気な姿に,また,愛とは何かということに気づいていくジョンの心の変化に,読者はすっかり取り込まれてしまうのです。
「愛情が伴わない欲望は風と同じ。実体をもたないから,つかまえておくことも不可能だ。そのことをつねに心にとどめておいたほうがいい。」などという警句の静かなトーンの中で,ストーリーの面白さより,主人公たちの心の変化の面白さに,気づいていける大人の味のヒストリカル・ロマンスです。




王女の初恋 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO491
王女の初恋 Princess of Fortune 2004」
ミランダ・ジャレット Miranda Jarrett 高田ゆう





ナポレオン戦争当時。イタリアの王国モンテヴェルデの王女イザベラ・ディ・フォルトゥナロは王妃である母からの命令で,モンテヴェルデの王家に伝わる貴重な宝石類を身につけて単身イギリスにのがれる。亡命先のイギリスで王女の警護役に任じられたのは英国海軍の将校トーマス(トム)・グリーヴズ大佐だった。
初めは,イギリスの野蛮な人たちを見下してなんでも命じようとする気位の高い(はっきり言って生意気な)プリンセス・イザベラだったが,祖国を逃れて独りぼっちになったところに優しい言葉と自分を身を挺して守ろうとする大佐に,心を許したプリンセスだった。さまざまなところで命を狙われるプリンセスだが,それは,モンテヴェルデでの王政を転覆させようとするイギリスでの反対勢力の仕業で,三角形のしるしをまとった人々によるものだった。ついには母である王妃もイギリスにのがれてくるのだが,その時,プリンセスはグリーヴズ大佐を心から愛し,国も宝石も捨てて大佐との愛に生きようと決意していたのだった。
原題の「Fortune」はフォルトゥナロの英語読みだろうか?


乙女と月と騎士 [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO484
乙女と月と騎士 Another Chance to Dream 1998」
リン・カーランド Lynn Kurland lynnkurland.com 旦紀子





直訳すれば「夢に向かうもう一つの機会」と題された,シーグレーヴのグウェネリンGwennelyn of Segrave(グウェンGwen)とリースRhysのヒストリカルです。ド・ピアジェDePiaget一族のリースは騎士として幼少のころからグウェンを守ることを心に決めていたのですが,領地をもたない騎士の身分であり,広大な領地の相続人であるグウェンを得るためには,競技会で優勝して賞金を得るしかありません。リースはフランスに渡り,数年間でかなりの額を手にし,領地を買おうとします。グウェンは,ひたすらリースの帰りを待ちますが・・・。
リースの家系が,このシリーズで,重要な役割をもっています。祖父ジャン・ド・ピアジェ,父エチエンヌと母メアリー。そして物語後半でリースの妻になるグウェンは,イングランド,シーグレーヴの領地に父ウィリアムと母ジョアンナの下で育ちます。9歳の時に14歳のリースと出会い,「私の擁護者(チャンピオン)になって」と頼んでから,生涯をかけて,リースとの愛を貫きます。グウェンは15歳のときには,リースの養父であるイングランド,アイルの領主ベトラムの長男アランとの婚約を果たすため,結婚式の前夜リースと愛を交わしますが,のちに生まれるロビンが,リースの息子なのかアイルの息子なのかは本書では語られません。そして,べトラムの次男,敵役のロランは,盗み聞きの名人であり,今でいう情報将校のように悪だくみの計画を練り,常に自分の都合のよいように未来を描くことでも,ちょっと哀れな存在です。そんなロランも,圧倒的な美しさをもつグウェンに恋心を抱きますが,歪んだ思いであり,終末で誤ってグウェンに弓矢を射かけたことに動転して自らの胸に弓を引く悲しい最期を遂げます。またべトラムの三男のジョンは騎士道精神にあふれ,リースを師と仰ぎ騎士を目指すすばらしい少年です。
武芸競技会の猛者であり,騎士のしての腕前がイングランド,フランス両国に響き渡るリースですが,グウェンとの舌戦にはかなわず,常に気の強いグウェンの言うとおりになってしまいますが,外見の美しさだけではなく,そんなグウェンの自立心にもリースは惹かれています。そして,グウェンを守ろうとしますが,グウェンのほうは逆にリースを守ろうと剣術をバイキングの双子に手ほどきを受けたり,城にとどまっていると約束しながらもこっそり危険に赴こうとするリースを追いかけたりとお転婆を繰り返しますが,二人や周囲の人々の愛にあふれた言葉と行動はユーモラスであり,涙を誘い,ほのぼのとした温かさがあふれてきます。わき役もたくさんその存在感を示しますし,祖父ジャンとリースのやり取り,アイルの地下に追いやられている治療師の老人とその孫娘(最後の最後にその名前がベレンガリアであることが明かされます)など世代を超えた深い信頼と愛がいっぱいにあふれた物語であり,600ページ一気読みができる作品に仕上がっています。
139ページに誤植がありました。「そうしなければ」が「そうなければ」となっています。




いつもふたりきりで [ヒストリカル]

SHALOCKMEMO481
いつもふたりきりで Love is Blind 2006」
リンゼイ・サンズ Lynsay Sands lynsaysands.net 上條ひろみ





「美人なのにド近眼の眼鏡っ子」と「戦争で顔に深い傷跡を残した伯爵」のふたりが,互いの劣等感で互いに自信が持てずに,互いに誤解しあい,それでも,周囲の人々の励ましで互いの愛に気付いていく,という心温まる物語。
少々,ミステリっぽく新妻クラリッサが思わぬ事故に何度も逢ううちに,新郎エイドリアンが出してもいない手紙を妻が受け取って噴水に顔を突っ込んで死にそうになるところから,単なる事故ではなく命を狙われているのではと気付き,探偵を雇ったり,親友や家族を疑ったりするというサイドストーリーがあるものの,互いの愛にのめり込んでいく描写が全編を通して描かれ,ちょっと具体的すぎるのでは?と思わせる部分も多いのですが,表紙に描かれているように,「無邪気でかわいい」ヒロインと,顔に傷があっても颯爽として男らしいヒーローの人間的魅力と,ヒストリカル,特にリージェンシーにはかかせない,抜け目のない執事の登場も相まって,さわやかな読後感を得られる秀作に仕上がっています。1月に発売された本書ですが,お勧めの一作です。


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