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アンダルシアの休日 [アン・メイザー]

SHALOCKMEMO1456
アンダルシアの休日 Her Guilty Secret 1999」
アン・メイザー 青山有未




HQB-802
17.05/¥670/208p

HR-113
(地中海の恋人)
06.03/¥966/378p
R-1829
02.12/¥672/156p


 原題は「彼女の罪な秘密」
 ヒロイン:カッサンドラ(ケイト)・スコット(29歳)/ロンドンの書店員/赤みがかった金髪,すらりとした脚,ブルーの瞳/
 ヒーロー:エンリケ・デ・モントーヤ(34歳)/スペインの企業経営後継者/黒髪,黒い瞳/
 今月2017年5月のHQ文庫のラインナップはかなり豪華でした。HQB-800のキャロル・モーティマーを皮切りに,ノーラ・ロバーツ,アン・メイザー,ヴァイオレット・ウィンズピア,ペニー・ジョーダン,ベティ・ニールズとこれだけ大御所が揃うと,どれを読んでもそれなりの作品ですから,逆になかなかイチオシが付けにくい結果になってしまっています。表紙からするとイチオシはペニー・ジョーダンの「ブラックメイル(SHALOCKMEMO1452)」です。さて,本作はアン・メイザーの1999年の作品。地中海の恋人の関連作です。書店員のカッサンドラ(ケイト)・スコットは,亡夫の兄の突然の訪問を受けます。デ・モントーヤ一族の次期後継者であるエンリケは,「弟があんな悲劇的な死を遂げただけでも,僕が激怒するのは当然だ。あの女がアントニオの名誉も,節操も,未来も,すべてを壊してしまったのだ。もしかしてアントニオは新妻がどんなにふしだらな悪女であるかを知ったために,ハネムーンでイギリス南部に向かう途中事故死したのではないだろうか。」と考えていたのです。10年前スペイン富豪の父のフリオ・デ・モントーヤは次男の反抗も受け入れず,ロンドン留学中の次男がイギリス女性と結婚したいと言ったときどんな犠牲を払ってでも結婚を阻止しようとして,長男のエンリケをロンドンに送り込んだのです。弟に結婚を断念させる唯一の方法は自分が誘惑することだと考えたエンリケ。何も知らずにエンリケに惹かれたケイトとある使命を帯びてやって来たエンリケはあわただしく一夜を過ごし,その後ケイトは弟のアントニオと結婚式を挙げ,初夜を迎えることもなくそのまま事故死してしまったのです。それから10年。ケイトの一人息子デヴィッドを甥だと思い込んでいるエンリケは,自分との共通点に愕然とし,デヴィッドが自分の息子であることを知ります。当時アントニオにはサンチ・デ・ロメロャという婚約者がいたにもかかわらず,その婚約を解消しケイトと式を挙げてしまうのです。その後サンチャは一年後にはスペイン王室の遠縁の男性と結婚し,高齢の夫が亡くなると未亡人としてエンリケに愁波を送り始めたのです。かつてたった一夜を共にしただけのケイトに再開し,弟を死なせた恨みと,それでもケイトに惹かれてしまう自分,そしてデヴィッドという甥の存在と複雑に絡み合う人間関係にエンリケは悩みます。パラシオ(宮殿)と呼ばれるデ・モントーヤ家の住まいに連れてこられたケイトとデヴィッド。デヴィッドがエンリケの子供であることを知られてはならない,これは自分たち親子がこれから暮らしていくための最後の切り札だと考えたケイトですが,「エンリケのキスはカッサンドラの頭の中を空っぽにした。自分でもわけが分からないうちに,心の求めるままに彼を求めていた。」と彼女にとって唯一の男性エンリケへの思慕が10年経っても全く変化していないことに戸惑います。自分のルーツである父方の親戚たちに会うことを楽しみにしていたデヴィッドの喜びぶりをみて,ケイトはデヴィッドをデ・モントーヤ家に預けてイギリスに帰国するのでした。さて二人のその後は・・・。アン・メイザー独特の絡み合った複雑な状況を次第に解きほぐしていくストーリー・テリングの冴えは,本作でも健在です。


タグ:ロマンス
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湖の秘密 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1455
湖の秘密 The Secret Pool 1986」
ベティ・ニールズ 塚田由美子




HQB-805
17.05/¥670/200p

B-127
95.09/¥510/186p
R-0575
87.12/¥550/156p


 原題は「秘密の湖」
 ヒロイン:フランセスカ(フラン)・マニング(25歳)/看護師長/濃いまつげ,はしばみ色の美しい瞳,やさしい口元,美人ではないけれど周囲の人に親しまれる性格,小柄/
 ヒーロー:リトリック・ファン・レイゲン(36歳)/医学博士/長身,広い肩幅,白いものが混じる金髪,女性なら誰しも振り返る美貌/
 美しくも命のはかなさを歌い上げた珠玉の小品。HQ文庫版表紙にはオランダの象徴である色様々なチューリップが咲き乱れる様子が描かれていますが,この存在感と明るさが余計本作読後のはかなさを引き立てるとはなんと皮肉に満ちた表紙をつくったものでしょう。コツワルド給料のコテージホスピタルの看護師長フランセスカ(フラン)・マニングは,12歳の時両親を飛行機事故で亡くし,以来3人の独身の伯母たちと生活してきました。末っ子だったフランの母だけが結婚し,13年後に命をとしてしまったのでした。フランもなんとか家から独立し看護師としてブリストルの大学病院で研修を積み,現在はこの片田舎にある小さいけれど設備の整った病院で看護師長として勤務するところまでキャリアを積んできたのでした。その病院に時々やってくる熱帯病専門医のリトリク・ファン・レイゲン博士というオランダ人の医師の依頼により病院側が白羽の矢を立てたのがフランでした。その依頼とは,博士の幼い娘リサの世話をするというものでした。もはや治癒の見込みのない病に冒され終末医療を施されようとしている可憐な少女に最後の希望を持たせたいという周囲の心遣いから,博士と結婚し,家族として数ヶ月生活して欲しいというとんでもない依頼だったのです。終末医療,それは少しでも患者の苦痛を除き,最期の期間を充実させたいという将来の見込みのない治療法ではありますが,それによって少しでも患者に明るさと希望を与えられるものならと,現在ではごく当たり前に行われるようになったものではありますが,作者が本作を描いた今から30年も前の1986年当時は,それほど一般的ではなかったのではないでしょうか。そういう状況では本作はかなり重要な提言をする作品だったのかも知れません。そのため治療の一部として結婚というセンセーショナルな方法をとらざるを得なかったのかも知れませんし,ロマンス作品であることを考慮すればこの方法もうなづけるものと言えるのかも知れません。
 さて,とりいそぎ結婚してオランダのハールレム(ハーレムともいい,ニューヨークのハーレム地区の名称の元になった町)へと移動します。そこでリサと知り合い,リサもまたフランの優しさに触れて,すっかり打ち解けていくのです。しかし病人や使用人の前でのリトリックの態度と二人きりの時のフランへの態度は全く異なっていました。リトリックもまたリサがいなくなった後にフランと別れることを前提としていたため,過剰に親しくなっては若いフランの今後に問題を残すことを考え敢えて冷たい態度ととって余計な期待を抱かせないようにと言う配慮だったのです。しかし若いフランに取ってみれば自分がこの親子にとって何だったのか,また自分のリトリックへの愛がこの後も続いていくのに,それを諦めてかなければならないことの苦しさとの狭間で苦しみます。生前フランとリサは,家から散歩に出たときに偶然見つけた古い農家の林の中にある美しい湖の畔で過ごす時間が多くありました。静かな湖の畔にたたずみ何も考えずにじっと時をすごし,景色の美しさに浸るというのが二人にとっては大切な時間だったのです。この湖が表題にもなっている「secret pool」です。静かにそして幸福の内にこの世を旅立ったリサを見送った後,フランは再びこの湖を訪れ,リサとの共有した時間に自らの身を浸していくのでした。ところが,ある日,農家に住んでいた婦人にいくら声を掛けても返事がありません。心配になって家の中に入ってみると婦人が倒れているのを見つけます。なかなか帰宅しないフランが心配になったリトリックが使用人の言葉を頼りにフランを探して,この農家を発見します。そしてフランとリトリックとでこの婦人の命を救うのでした。看護師としての本領を久しぶりで発揮することのできたフランは再びイギリスでの仕事に戻ろうと決意します。帰国前にリトリックの大伯母オルダ夫人を訪ねたフランは,「あなた,あの子を愛しているわね,フランセスカ?」とリトリックへの愛を見抜かれてしまうのでした。「はい,彼を愛していますわ,心から」とすぐに言葉が口をついて出てしまいます。この言葉を偶然聞いたリトリックのこの後の行動が,なんとも気が利いていて,ベティ・ニールズの本領発揮というところです。イギリスまで送るという言い訳をしながらリトリックの取った行動とは・・・。最後の大団円がいつもどおり見事な作品でした。


タグ:ロマンス
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虹に願いを [マーシー・グレイ]

SHALOCKMEMO1454
虹に願いを Rainbow's Promise 1993」
マーシー・グレイ 関口諒子




HQB-794
17.04/¥670/200p

HR-013
02.10/¥557/156p
L-0635
94.11/¥610/156p


 原題は「虹の約束」
 ヒロイン:リリー・アン・ジョーンズ(24歳)/保険会社「ネズビット・ヒューフネーグル社」社員,ハウスキーパー/身長174センチ/
 ヒーロー:ジョシュア(ジョシュ)・ディレーニー(34歳)/作家/身長190センチあまり,黒髪,美しい顔立ち,鼻筋が通り,頬は引き締まり,顎はがっしり,ふっくらした口元,長く濃いまつげ/
 「心配いらないわ,雨はいつだって止むんだもの。神様がね,もう洪水は起こさないって約束したのよ。だから雨が上がると,約束の印に空に虹を架けてくださるの」という幼いサラの言葉に慰められるリリー・アン。「でも人間が約束するときは虹は見えないみたい」「洪水」とは,もちろん「ノアの箱船」に登場する洪水のことでしょう。地球上にはびこった人間という悪の存在を一度リセットするために無害なワンセットずつの生き物を残してすべてを流し去る雨を降らせた洪水。ノアと園は小舟に乗った生き物たちは神と新たな契約を結びその印を虹という形で残した。という美しいお話しで原題どおりです。
 仕事募集の新聞広告を見てジョシュア・ディレーニーの元を訪れたリリー・アン・ジョーンズは,石と木材でできた広大な農家風の家で身長190センチはあろうと思われる長身の男性に迎えられます。リリー・アン自身も174センチと女性としては長身ですが,ジョシュアを見上げるしかありませんでした。「間違いなくこの人は,今までに私が出会った男の人の中で最高にハンサムだわ」とその外貌に興味を持ちます。そしてそんなハンサムなジョシュアが盲目であることにすぐ気づいたのです。家にはサラとサミュエルという二人の子供がおり,その面倒を見て欲しいというのですが,二人は普段はとても素直で聞き分けのいい子供なのです。しかし前のハウスキーパーだったミルドレッドが亡くなってしまい,その後やって来たリーナもすでに辞めてしまい,家の中はジョシュアがものに躓くほど雑然としていました。リリー・アンは自分の父親がこのジョシュアに定期的にまとまったお金を送っていたことで,なんらかの詐欺か恐喝に逢っているのではと疑ってここにやって来たのでした。しかし盲目で二人の子供を養育している人がそんなことをしているとは・・・。「このまま帰るわけには行かない。今となっては。それは彼の外見に惹かれたからでもある。永遠に見つめていてもいいと思うほどだ。しかし,それだけではない。彼のプライドがなぜか私を不安にするのだ。援助など要らないという拒絶の態度が。」と,リリー・アンはそのままこの家に残ることにしたのでした。サラとサミュエルの養育を巡っては福祉事務所の担当官から忠告を受けつつあるようです。兄夫婦の子供である二人を遺言により引き取りはしたものの,盲目の男性一人で二人を養育することは困難を極めます。なんとか力になりたいとリリー・アンは本来の父のお金をだまし取っている人という疑いを捨て,巻き込まれ的にハウスキーパーを引き受けてしまうのでした。「リリー・アンは彼をじっと見据えた。やっぱりそうだわ。こんなに強そうに見える人だけど,子供たちを失うのが怖いのよ。規則にとらわれすぎたソーシャルワーカーは,ジョシュアの目が見えないことにばかり気を取られてしまうのかも知れない。愛情も家族の絆も,簡単に消え失せるとでも考えているのだろう。私の方は,彼のすべてに魅了されている。父とジョシュとの関係はまだ分からないのだから,それを探ろう。」と自分に言い聞かせて・・・。そしてその関係に疑いをもったのはジョシュの失明の理由を聞いたときからでした。「カンザス州のハイウェイで,あの事故を起こした酔っ払い」のせいだったのです。父が事故を起こしたことを知っていたリリー・アンはその被害者がジョシュアではないかと,あまりの時期や事実の符合に愕然とします。4年前の事故で負った傷のせいでジョシュアが失明した。自分がその事故の加害者の娘だと知ったら,きっとジョシュアは自分を憎むに違いない。ジョシュとその甥姪たちを愛し始めていたリリー・アンは自分が気づいたこの事実をひたすら隠そうとします。そしてなんとかしてジョシュの力になりたいと。失明以来作家としての仕事ができなくなってしまったことを知ったリリー・アンはかつて担当していたデータ入力の仕事を生かして,ジョシュアの作品の口述筆記をすることを申し出ます。「困難を克服しなければ何も試みることはできない」というかつてのイギリスの文豪サミュエル・ジョンソンの言葉を思いだしたジョシュアはリリー・アンの申し出に勇気を振り起こし,時間を見つけて作品の口述を二人三脚で始めるのでした。この間の二人の仕事上だけではない心の交流が,本作の温かな雰囲気を盛り上げていきます。ところが,福祉事務所からやって来たソーシャルワーカーのミセス・ラドロウがとんでもないことをやってのけてしまいます。リリー・アンと父の関係を暴き出し,4年前の事故の加害者の娘であることを調べだしてジョシュアに教えてしまうのです。ジョシュアの妻になり,子供たちとともに家族になることを夢見だしていたリリー・アンにとっては,最悪の事態になります。事実を告げられたジョシュアからの鋭くきつい言葉。リリー・アンは謝罪と家を出ることをなくなく決意しなければなりませんでした。そしてその時に子供サラの言った言葉が冒頭の言葉なのです。さらに続けて「リリー・アンがこのおうちを出て行かないって約束してるときに,空を見たんだけど。だからジョシュおじさんに聴いたの。そうしたら神様からの合図は目に見えないから,人を信じるか信じないかは自分で判断しなきゃいけないんですって」という言葉に読者は泣かされます。「罪を許さず人は憎まず」という心境にジョシュアはたどり着けるのでしょうか。とにかくあたたかい作品です。ヒーローが盲目なので,ヒロインの外見についてはほとんど語られないのですが,心根の美しい女性であることは間違いないですね。
 本作の作家マーシー・グレイはたった4冊の作品を残しただけの作家でほとんどプロフィールは分かりませんが,4冊すべてが翻訳され,そのうち1冊が再版されたものです。いずれ他の作品も再版されることを切に願う次第です。


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