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二人のティータイム [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1163
二人のティータイム Dearest Mary Jane
(恋人はドクター) 1994」
ベティ・ニールズ 久我ひろこ





 しゃれた邦題のベティ・ニールズ作品です。モデルで美貌にあふれた,しかし俗物の姉フェリシティを持った,特に綺麗だとも自分で思っていない,いわゆる目立たない性格美人の少女メリー・ジェーン・シーモアは,片田舎の生活に馴染み,叔父・叔母の残した遺産で建てた喫茶店を経営しています。小さな村で近隣の人たちと助け合いながら生活しています。背は高くなく,少しやせすぎていて,顔立ちはおとなしく,薄茶色の長い髪と長いまつげに縁取られた菫色の瞳をもつメリー・ジェーンですが,その瞳に見つめられたとき,誰でも始めて彼女がありきたりの娘ではないことに気付くのでした。スコーンや紅茶,コーヒーといった簡単なものを出し,村の人たちや,旅行途中の人たちが気軽に立ち寄る店で,なんとかぎりぎりの生活をしていても,メリー・ジェーンはいつかは素敵な男性が自分を見初めてくれるのではないかという夢は普通の女子と同じようにもってはいるのです。あるとき,閉店間際に美女を連れた大柄な男性が魅せに駆け込んできてお茶とスコーンを注文します。表には彼が運転してきたらしいロールス・ロイスの車が駐車され,きっとお金持ちなんだろうと想像できました。数日後,店の向かいの老女姉妹の病院への付添を頼まれて病院に行ってみると,先日訪ねてきた男性が医師としていたのです。看護師に名前を聞くとサー・トマス・ラティマーという名前だと分かりました。サーの称号をもつ医師。トマスとメリー・ジェーンの関係のスタートです。
 細々とした日常を描きながら,少しずつトマスとメリー・ジェーンの人生が交差していきます。二人の関係を邪魔するのは,メリー・ジェーンの従兄弟のオリヴァー,そして姉のフェリシティです。姉は直接的にトマスの誘惑を試みますし,オリヴァーはなにかと噂をメリー・ジェーンに告げては不安をあおる役割を果たしていきます。特にトマスがオーストラリアに出張している時期にフェリシティもまたオーストリアに行っていたという事実をオリヴァーが告げた時は,もうメリー・ジェーンはトマスとの関係は絶望的だと思ったのでした。しかしトマスの母と家政婦や,ロンドンのトマスの家の使用人たちは,皆メリー・ジェーンを気に入ります。そして,最後の大どんでん返しは,作者ベティ・ニールズの得意とするところです。とても爽やかで愛らしく,礼儀正しいメリー・ジェーン。ヒロインとして,かなりナイスな存在です。


タグ:ロマンス
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赤い薔薇とキス [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1153
赤い薔薇とキス A Match for Sister Maggy 1969」
ベティ・ニールズ 朝戸まり





 「オランダの大女(Amazon)看護師」という連作ものの一つで,[strong heroine]と書評を書いている人もいるベティ・ニールズ傑作作品です。ハイランド出身の主任看護師マギー・マクファーガスの勤めるセント・エセルバーガ病院に老婦人が入院してきます。ヘンリエッタ・ファン・ベイエン・ドゥールスマという心臓を病んだ上品な婦人でした。そしてその息子でオランダのフリースラント出身の専門医パウル・ファン・ベイエン・ドゥールスマという,数代前から医師の家系につらなる富豪貴族の依頼で,病院の上級専門医サー・チャールズの手術を受けたのでした。手術は無事終わり予後の療養のためにマギーが病院の特別の配慮で,ヘンリエッタの付添看護師としてオランダに赴くことになったのです。看護師ばかりでなく老齢の入院患者たちからも目を向けられるほどのハンサムなパウルと一緒にヘンリエッタに付き添えることになったマギーは,病院内でもピカイチの看護師としててきぱきと仕事をこなせる女性でしたが,身長180センチの長身に見合う男性はなかなかおらず,自分も決して美しいとは思っていませんでした。しかしパウルは2メートルの長身で,マギーと並んでも身長を気にしなくても済む数少ない男性だったのです。時折仕事ぶりを褒められ,しかもハンサムな医師から是非にと請われ,断り切れなくなったマギーは同時に女性としてパウルから認められたいという思いをもったのでした。ロンドンからオランダへの飛行機の旅,そしてオランダ国内でも独特の言葉と文化を持つフリースラント州内の土地柄,さらには首都アムステルダムへの休暇での旅など,多くの名所や地名がマギーの訪れる先として紹介されます。ファン・ベイエン・ドゥールスマ家のオランダ国内のいくつかの家での親戚や雇い人たちとの交流,そしてかつて病院の入院患者だったマダム・リヴォーとの偶然のオランダでの出会い,さらにはパウルが何度も足を運ぶ美しく小柄な女性医師の住むユトレヒトへの謎の行動など,いくつかの挿話を重ねながら,期待と失望を何度も繰り返すマギーの心の葛藤を中心のエピソードとして物語は進行していきます。年齢差12歳と,ハイランダーとフリースランダーという異なった文化と歴史を持つ男女のマッチングを,作者がどう果たしていくかが克明に描かれた秀作です。最期の大どんでん返しがドラマチックに,二人がその後どうなったのか,あと50頁は語れそうな余韻を残し感動を呼びます。


タグ:イマージュ
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地下室の令嬢 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1150
地下室の令嬢 Dearest Love
永遠の愛をこめて 4) 1995」
ベティ・ニールズ 江口美子





 昨年7月にKINDLEで購入した作品。やっと読了できました。SHALOCKMEMOの1150号となる切れ目の作品にベティ・ニールズ未読作を選ぶことができて良かったと思います。ベティ・ニールズ作品読了11冊目となる本作ですが,初めに読んだ彼女の作品に対する印象について,「片思いの日々(SHALOCKMEMO232)で,「これほど音のない世界を見事にロマンスに仕立てるベティ・ニールズの手腕に脱帽。まるでヒストリカルのようでいて,ヒストリカルですらもっと派手やかな場面や騒がしい場面があるのではないかと思われるほど。この作品で唯一音が感じられるのは村のパーティでのダンスの場面ぐらいか。」と書いていたのですね。本作でもその印象は変わりません。しかし,ヒロイン,アラベラ・ロリマーが夫タイタスを追いかけてしつこく迫る知り合いの女性医師ジェラルディーンに対して普段の様子や外見からは想像できないほどの熱く煮えたぎる嫉妬と怒りを感じている様子が,まるで魔女がぐつぐつと鍋で妖しげな薬を煎じているように感じられて,それはそれでかなりの熱と音が感じられるのも,作者の筆力によるものかと思い,改めてすごさを感じました。そして原題の「いとしい人へ」が作品末尾で夫から妻への愛の手紙の書き出しであるところも,実に計算され尽くされたしゃれた展開であることに驚きを感じます。原作は1995年(邦訳は97年)とされていますから,もう20年以上前ですが,その独特な雰囲気の作風は,まだ20年しか経っていないの?というふうに思えるのも,ベティ・ニールズらしさかもしれません。イチオシの作品です。


タグ:イマージュ
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赤毛のアデレイド [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1140
赤毛のアデレイド Sister Peters in Amsterdam 1969」
ベティ・ニールズ 小林節子





 ベティ・ニールズのデビュー作です。原題の「Sister」は女性看護師の意味。交換看護師としてオランダにやってきたアデレイド・ピーターズ看護師は,オランダ語を学びながら小児科看護師としてファン・エッセン教授やベイクマン医師などと1年間勤務することになります。イギリスの病院で教授はアデレイドの勤務ぶりを看護師長から聞き,文句なく推薦できると太鼓判を押されます。実際オランでの病院での勤務でもいくつかのやっかいな患者や泣き叫ぶ子供患者たちをあっという間になだめたり,外来に訪れる患者の様子を見て医師がすぐに治療できるように用具の準備を前もってしたり,休憩が欲しいとき医師たちにコーヒーはいかがですかと声を掛けたりと,まるで魔法使いのような働きぶりです。冬のクリスマスや新年の過ごし方のイギリスとオランダの違い,スケート遊びに興じるオランダ人たちの様子,イギリスの実家に夏の休暇で教授と一緒にドライブしたときの途中の景観などの楽しいエピソードや,交通事故の時救急車が来るまで閉じ込められた女の子を励まし続けたりする看護師としての仕事の上での活躍など盛りだくさんなエピソードを巧みに織り交ぜて教授を次第に愛するようになるアデレイドの心の変化を詳細に描いた傑作です。恋敵の令嬢マルフリートの俗物さもアデレードの純真さを浮き立たせるための見事な描き方をされています。デビュー作としてかなり時間をかけて練り上げられた作品なのだろうと思います。最後のどんでん返しが読者にヤッターと叫ばせるドラマチックな終結です。イチオシの作品。


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シンデレラを探して [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1119
シンデレラを探して The Right Kind of Girl
ベティ・ニールズ選集 6) 1995」
ベティ・ニールズ 上木治子





どの作品もイチオシのベティ・ニールズ選集の第6弾です。珍しく舞台はイギリスのエクセターのみ。オランダ風味がない舞台設定ですが,ヒーローが医師であることは同じです。外科の顧問医師で教授のポール・ワイアット,サーの称号をもっています。たまたま手術をした年配婦人の娘がエマ・トレント。父を亡くし,病気の母との二人暮らし。家計の足しにとスミス・ダーシー未亡人の付添兼秘書,つまり何でも屋として働いています。なにかにつけて自分の要求ばかりを押しつけ,暇なしに文句を言う夫人に不満を持ちながらも,僅かながらの給金がないと生活が成り立たなくなるので我慢しながらも生活しています。旅行中に夫人が病になり緊急で往診に駆けつけたポール・ワイアットは一目でエマが法外な要求にもしっかりした対応をしていることを見抜きます。そして母の手術後にも病院に送り迎えをしてくれたりとなにかと顔を合わせる機会を増やしていきます。「中背で薄茶色の髪をお下げに編み,人目を惹くような顔立ちではないもののすっきりした均整の取れた体型と美しい脚」をもつ25歳のエマ。母の入院中の時間を有効に使おうと富豪の夫人の子守兼家政婦として一人3役の役割を果たして3週間。3百ポンドの蓄えを作って母が退院してきたものの,数日後に母は急に倒れてしまいます。静脈瘤の破裂が原因でした。葬式にもポールはやってきませんでした。当時アメリカに出張中だったのです。葬儀の翌日やっと現れたポールの顔を見たとたんエマは泣き出してしまいます。そっとエマを慰めたポールは,「結婚しよう」と一言告げ,エマに荷物をまとめさせると自分の家に連れて行くのでした。家政婦のミセス・パーフィットにも気に入られ,村の人たちからもポールの妻として大切にされるようになるエマ。そしてポールの両親の家でも暖かく迎えられます。多忙でなかなか顔を合わせることもできないポールに,週に何日か乳児院での子供の世話をしてみないかと言われ,喜んで出かけたエマですが,そこの事務長ダイアナとは全く気が合いませんでした。毎日出勤しているメイジーとはすぐに友達になれたのですが,ポールとは昔からの知り合いで今でも付き合っていることを匂わすダイアナ。やがて近くのジプシーのキャンプで何人もの子どもたちが百日咳の症状を示しているところに一人でやられるエマ。救急車を呼んで欲しいというエマの言葉にダイアナは逆に急ぐ必要はないと連絡をとるのでした。疲労の極限でやっと務めを果たし終えたエマが家に帰りポールが帰ってきてみると,逆に何故無理をしたのだと問いただされる始末。ダイアナがワザとエマが勝手に暴走したのだとポールに嘘をついたのでした。「どうしてダイアナの言葉を信じて私の言うことを聞こうともしてくれないのだろうか」と疑心を持ったエマ。それから二人の関係はぎくしゃくし始めます。ロンドンでの出張のあと家に立ち寄ったあととんぼ返りで病院に戻っていくポールの姿に,きっとダイアナに会いに行くのだろうと邪推するエマ。実は多重交通事故で緊急手術が立て続けに起こっていたのでした。そんな二人のすきま風をうまく利用して,ダイアナはポールの留守中エマの元を訪れ,愛のない結婚はいずれ破綻すると面と向かってエマに出ていくように言うのでした。緊急の用事という伝言を聞いて乳児院に立ち寄ったポールの帰り際,メイジーがエマがキャンプの時にダイアナから意地悪をされたことを明かします。妻とダイアナとどちらが本当のことを言っているのかやっと理解したポールはどんな行動を取るのでしょうか・・・。ポールはワザと家政婦を出かけさせ,自分も二・三日留守をすると言い置いて出かけていきます。エマは遂に家を出る決意をして荷物をまとめ,指輪と手紙を書斎において出かけようとするのですが・・・。
夫であるポールをすっかり愛してしまったエマが,愛する人の力になりたい,もしダイアナとポールが愛し合っているのなら自分が身を引くしかない,と決意するのはそれだけ愛が強いからでしょう。そんな純なエマの気持ちがとても胸に迫ってくる作品です。


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霧氷 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1094
霧氷 The Silver Thaw
(ベティ・ニールズ選集 5) 1980」
ベティ・ニールズ 大沢 晶





 1カ月ぶりのベティ・ニールズです。選集第5作目になりました。「氷雨降るハーグ」で選集の魅力に嵌まってしまって,どの巻も作者の質の高い,しかもちょっぴりテンポ感の緩やかな古風な考え方のヒロインたちと魅力的なヒーローたちの造型に感心しながら読み進めています。紙本ではみんな持っているのですが,電子書籍でないとなかなか読めなくなっているので,今回も配信を待ってから読みました。
 さて本作のヒロインは「聖アンセル病院」の手術室付き看護師長アミリアです。裕福な家庭で育ち優秀な成績で看護師の道を目指し27歳にして看護師長を勤めるアミリア。外科医のトムと婚約中ですが,トムの方は丁度今キャリアを築いていきたい年頃,家庭に早く入りたいと願うアミリアとはどうしても考えがすれ違っていきます。アミリアの父は無類の釣り好きでアミリアに休暇を取らせ,ノルウェーでの3週間の釣り旅行にアミリアとトムを誘います。トムは1週間ならなんとか休暇を取れることになり,3人でノルウェーに飛びます。なかなか煮え切らないトムの態度。二人の将来のことについては結局結論が出ないままトムはロンドンに帰ってしまいます。数日遅れてギデオン・ファンデルトルクというオランダ人と父が親しげに話をしているのに気付きます。長身でハンサム,ドクターだということです。ギデオンの誘いで絶好の猟場に出かけたり,さらに遠出して泊を伴って名高い猟場に出かけたりとギデオンに振り回される日々が続きます。さらにお土産の買い物にと,1日送り迎えをしてくれるギデオン。時々無神経なことを言って自分を怒らせるギデオンに,反発を感じたのは最初だけでした。やがてトムとは異なる想いをギデオンに感じ始めたアミリアは,それが恋だと気付くのに新年が明けるまでの数ヶ月を要したのでした。ノルウェーの帰りにオランダのギデオンの屋敷で1泊したり,充実した休暇を過ごしたクロスビー親子ですが,ロンドンに帰るやいなや再び忙しい日々がはじまり,トムから意外なことを言われてしまいます。5年契約でオーストラリアのパースでの仕事の誘いがあり,キャリアを高めるために行きたいというのです。条件は独身であること。つまり自分は5年間待って32歳にならなければトムとの結婚はできないことになります。何とかその仕事を断って欲しいと頼むアミリアですが,トムの方はすっかりその気になってしまっています。結局トムとは別れることにするアミリアはクリスマスの期間中も勤務をするローテーションになり,休暇はクリスマス後にもらうことになります。実家に戻ったアミリアにパーティへの招待がいくつかあり,出かけてみるとギデオンも顔を見せているではありませんか。さらに実家にもギデオンは父の招待を受けてやってきたり,なにかとアミリアの前に現れてくるのです。そして年末にオランダのギデオンの家に招かれ新年を一緒に過ごすことを父や伯母たちからすすめられ,断り切れなくなったアミリア。すでにこの時ギデオンは密かにアミリアとの結婚を心に決め,着々とその準備を進めていたようです。35歳のギデオンですがファンデルトルク家は代々晩婚だったらしく,妹たちはすでに嫁いでいますが長男の彼と弟で医学生のレーニエルだけが独身でいたのです。ファンデルトルク家での大勢が集まった年末の大騒ぎで多くの人に紹介され,ギデオンの母や妹たちに温かく迎えられたアミリアは,ギデオンが結婚するらしいという噂を聞いただけでした。落胆のうちにロンドンに帰ったアミリアは周囲に当たり散らし,いつも毅然として仕事をしながらも気遣いの人と思われていたにもかかわらず,何か変わったと周囲の人々が驚くほどでした。そして,スリップしたトラックが満員の大型バスに衝突した事故が起きて,病院は緊張の空気に包まれます。手術の準備をしていたアミリアは,その時,麻酔医の声を聞いて思わず器具を取り落としてしまいます。自分の病院に麻酔医の口からギデオンの声がしたからです。マスクに覆われて顔が見えないにもかかわらず,それがギデオンであることは背格好からわかりました。どうして彼が・・・。ここから終結に向けてストーリーはぐっとテンポが速まります。
 もはや自分を抑えることができなくなるアミリアの心の動きを作者は見事に文章で表していきます。あいかわらずのイチオシの作品です。タイトルはオランダの厳寒の冬に現れる霧氷を表しています。これもまたしゃれたタイトルですね。


タグ:ロマンス
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小さな愛の願い [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1074
小さな愛の願い Only by Chance
(ベティ・ニールズ選集 4) 1996」
ベティ・ニールズ 久坂 翠





1996年というと今から20年ほど前ということになりますが,本作に登場する登場人物たちの価値観はまるで数世紀前のような古めかしい感じです。イギリスの地方を舞台にした本作はベティ・ニールズらしい,礼儀正しく,心温かい登場人物たちによって描かれており,ロマンス色の薄い作品となっています。例えば,ヒーローとヒロインが挨拶としてほっぺにキスすることはあっても本格的なキスは一度もないのです。
さて,養護施設で21歳まで過ごし,僅かな手持ち金しか持たず,難の資格も持たないでロンドンの病院の雑役係をしているヘンリエッタ・クーパー(コーパーという誤植が一個所あります)は,ひどいインフルエンザにかかります。その時偶然居合わせた脳外科専門顧問医のアダム・ロス=ピットは彼女を病院まで運び入院させることになります。それまで病院で身を粉にして働いているヘンリエッタのことをアダムは少し気にしながらも,特に目立つ美人でもなく,よく働く気の付く女の子だというぐらいの感覚しかありませんでした。しかし,迷子の猫を愛情を込めて育てようとしている様子や,病院の勤務の他にも早朝のオフィスの掃除をしてお金を無駄遣いしないようにしている様子などを見て,次第に彼女を守ってやりたくなっていくのでした。アダムには周囲の人が婚約者になるだろうと噂していて当人もその気になっている上流階級のお嬢さんデアドラ・ストーンがいます。しかし,全くの俗物で階級を鼻にかけ,使用人などの下の階級のものには人間扱いすらしない傲慢さに嫌気がさしているのでした。インフルエンザはさらに悪化して肺炎を起こしてしまったヘンリエッタは,彼女を嫌っている病院の病院の作業療法士が首にされ,住んでいた屋根裏部屋も家主のミセス・グレッグにより追い出されてしまいます。そのことを知ったアダムはヘンリエッタが退院後に仕事ができるように彼の家の近くのマナーハウスのヘンセン夫人が人を捜していることを知り,住み込みでの仕事を見つけてあげるのでした。アダムの家の家政婦ミセス・パッチも,マナーハウスでヘンリエッタと同室になるミセス・ペティファーも,マナーハウスの他のスタッフたちも,働き者で物覚えが良く,つましく生きようとしているヘンリエッタをすぐに気に入り,とても温かい心遣いをしてくれるようになります。また近所のアダムの母親の元家政婦マッティや,ティールームの女主人ミセス・ティッブズ,そしてアダムの母親もみんなヘンリエッタを気に入るようになるのでした。アダムに何度も助けてもらい,アダムを愛するようになるヘンリエッタですが,階級の違い,そしてなにより婚約者候補のデアドラの存在が,この恋は封印すべきだと固くヘンリエッタを苦しめていくのです。初心で無垢なヘンリエッタにいたづらを仕掛けようとするヘンセン夫妻の甥マイクや,牧師館の息子デイビッドなどがヘンリエッタの周辺に登場し,アダムに嫉妬心を抱かせると同時に,年齢の違いを気にしたアダムは若い人と幸せになって欲しいとヘンリエッタから距離を置こうとしたりと,二人は回り道を余儀なくさせられるなど,読者をやきもきさせます。このあたりの描き方が作者の特にうまい部分です。しかし,二人の周辺の暖かい人々の配慮と企てが果たして功を奏するのでしょうか。最後の大どんでん返しがすっきりした読後感をもたらします。周囲の人たちはみんな気付いているのに,必死にそれを隠そうとしているアダムとヘンリエッタの恋が思わず読者のほほえみを誘う傑作です。


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高原の魔法 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1046
高原の魔法 A Kind of Magic
ベティ・ニールズ選集 3) 1991」
ベティ・ニールズ 高木晶子





「氷雨降るハーグ(SHALOCKMEMO989)」「あなたのいる食卓(SHALOCKMEMO1016)」に続く著者選集の第3弾で,ハーレクイン・ロマンスR-1002のイマージュ復刻です。原題は「一種の魔法」。舞台はスコットランド。ウィルトシャー地方の小さな町の法律事務所で速記兼タイピストとして働くロージー・マクドナルドがヒロインです。本名はローズでしょうか,ロザリンでしょうか。なんとなくロザリンが似つかわしいような初心で誇り高く,しかも愛らしい女性です。「長身で女性らしい体つき,カールした焦げ茶色のショートヘア,黒い瞳」の25歳の美女です。スコットランドの観光案内のように自然のすばらしさや地名駅名,そして祖母と乗る「ロイヤル・スコッツマン号」という特別列車の旅行などがどんどん登場し,それだけでも面白く読める作品です。ヒーローはエジンバラの王立病院所属で地方でも尊敬を集めているサーの称号をもつ整形外科医ファーガス・キャメロンです。ハイランドの湖畔にある実家には母親が住んでいますが,普段はエジンバラの一軒家で生活している富豪でもあります。35歳まで未婚で決まった相手と交際した経験もありません。ロージーと祖母が乗った列車が止まっている間に祖母がかつて訪れたホテルでお茶を飲んだ後祖母が庭に出て脚をくじいてしまったことをきっかけに知り合ったロージーとファーガス。初めはファーガスの正体が明かされず地元の医者の代診だと思っていたロージーですが,何度か往診に来てもらい,エジンバラまでロールス・ロイスで祖母と一緒に送ってもらったことで,ただの医者ではないことが感じられました。しかし何でも人に命じてしまうファーガスの言動にちょっと腹を立てわざと冷たい態度をしていたため,二人は表面的にはどちらかというとぎくしゃくした関係にありました。しかし,ちょっとした挨拶のキスを受けたことから,ロージーの心の中にファーガスが大きな存在として定着していきます。ファーガスもまたいつも素直に言うことを聞かない小生意気なロージーが気に掛かってしまいます。こうした二人の間には恋愛感情が沸き起こるのですが,二人とも素直にそれを認めようとはしませんでした。ロージーの父の従兄弟でロージーたちを追い出す結果になってしまった伯父が亡くなり,かつて住んでいたところに戻ることになります。ファーガスの通勤経路の近くにあるところでした。ときどき家にも訪れるファーガスとロージーはハイキングに出かけたりファーガスの実家をたずねたりと交際がスタートするのですが・・・。ある夜ロージーが帰宅途中で荒野で明かりが点滅するのが見え,誰かがサインを送っているかもしれないと見に行くと少年が岩から転落し動けなくなっています。ロージーは車から懐中電灯をもってきて通りかかる車に合図を送ることにします。それからほぼ3時間雨の中で少年に付き添っていたロージーは来るがま近づくのが見えました。犬のジップを連れたファーガスでした。ファーガスの車の携帯電話から救急車が呼ばれエジンバラの病院に運ばれます。ロージーのこの機転を利かせた活躍のおかげで少年の命は助かり,ファーガスはいっそうロージーに惹かれる思いを強くしました。しかし,ファーガスの車に何度か美しい女性が乗っているのを見かけたロージーはファーガスが別の女性と結婚する予定であると思い込み,不機嫌なまま家に閉じこもってしまいます。さて,二人の関係はどうなるのでしょうか。
両親の愛に育まれ,まっすぐで美しい女性に成長したロージー。そしてなかなか決まった相手を見つけられないファーガスを心配するキャメロン夫人も,ロージーのように簡単にファーガスの言いなりにならない女性を好もしく見守っています。周囲の人たちの暖かい目線と,何にでも小言を言わずにはすまないロージーの祖母の存在が適度なリズムとなって,芝居を見ているようなストーリー展開を楽しめる名品です。オススメの一作。


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あなたのいる食卓 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO1016
あなたのいる食卓 A Gentle Awakening 1987」
ベティ・ニールズ 永幡みちこ





ベティ・ニールズの復刻版イマージュ本です。89年にハーレクイン・ロマンスで初訳が出されたもの,ベティ・ニールズ選集の第2巻です。いつものようにイギリスとオランダが舞台になり,ヒーローは小児科医です。今回ヒロインはヒーローのウィリアム・セドリー(オランダ語ではウィレムでしょうが)の家のコック,フロリナ・ペインです。母方の親戚がオランダにたくさんいるフロリナですし,名前自体もオランダ風ですが,フロリナの父はまだ50代なのにすっかり仕事を引退し心臓病の療養中,でも医者からはもうすっかり直っていると言われているのに働きにも出ずにフロリナの稼ぎで生活している怠け者です。ニールズの作品ではいつも善人と悪人がはっきりしていて,わかりやすく,その分読んでいて安心感があるものの,ドキドキ感が少なく,続けて読むには物足りなさを感じてしまうのが少々難です。ウィリアムの車はシルバーブルーのベントレー。羽を広げた鳥と中央にBのマークがオーナメントになっている車です。1919年創業ですから100年ちかい歴史を持ちますが,1931年からはロールス・ロイス,1998年からはフォルクスワーゲンの傘下にあるようです。原作が1987年ですから当時ベントレーはロールス・ロイスが国有化されたのに伴い,ヴィッカーズに売却されたようです。当時の新型車はミュルザンヌかカマルグあたりでしょうか。いずれにしても高級車であったことは想像に難くありません。
ちょっと優柔不断なウィリアム。前妻との間の一人娘ポリーンは愛らしい少女でパパ大好き。でも仕事場がロンドンにあるウィリアムは週末だけこの田舎の村のウィール・ハウス(水車屋敷)に帰ってくるという生活。屋敷には少女とナニーだけが住んでいます。その料理人になることになったフロリナですが,少女,ナニーともにすぐ仲良くなります。そして自分に親切にしてくれるウィリアムに恋をしてしまいますが,所詮は雇い主と料理人の関係。身分違いの淡い思い,特に目立つほどの美人でもなくブロンドでもない田舎の女性であるフロリナですから,ウィリアムに想ってもらおうなどとは思ってもいません。でも親切に声を掛けてもらったり,作った料理を褒めてもらったりするだけで舞い上がってしまうフロリナでした。そしてウィリアムの婚約者はとびきりゴージャスな美女ワンダ。ウィリアムがワンダを連れてくる度に表面的にはおとなしく雇い人としての対応に戻りますが,ポリーンもナニーも,ロンドンの屋敷の執事ジョリー夫妻ですら,このワンダを嫌っていることを隠そうとしません。ワンダが家事に全く興味を示さず,結婚したら娘を寄宿学校に追いやり,フロリナとナニーを即刻解雇すると公言するに至っては,敵対せざるを得ないことは目に見えています。しかし彼女と結婚するかどうかはウィリアムの決めることで,自分には何も言う資格がないということはわきまえていました。数ヶ月の間に,ポリーンとナニーのはしか騒動や,逃げ出した飼い犬を追いかけて行ってしまったポリーンが脳しんとうを起こし,ウィリアムが助けに来るまで長い時間フロリナが少女と犬とともに森の中で立ち往生してしまったことなどいくつかの事件がありましたが,最も大きな出来事は,休暇で行ったオランダの伯母の娘の結婚式で出会った自信家の青年がフロリナを追いかけ回し,それを誤解したウィリアムとの間に感情的な食い違いが生じてしまったことでした。しかもワンダがそれを利用してフロリナに出ていくように仕向けたのですから始末に負えません。でもじっとそれに耐えて何も弁解しようとしないフロリナ。やがて悲しい別れを決意したフロリナはウィリアムから数日間家を離れることを言い渡されてしまいます。しかしそれがウィリアムの計略であることはフロリナには思いもよらない結末に結びついていくのです。最後のどんでん返しが見事な作品です。


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ハナの看護日記 [ベティ・ニールズ]

SHALOCKMEMO994
ハナの看護日記 Hannah 1980」
ベティ・ニールズ 前田雅子





「上から読んでも○○○下から読んでも○○○」というCMの台詞がありましたが,原題にもなっているヒロインの名前"Hannah"は,まさしく右から読んでも左から読んでも同じになるんですね。イギリスとオランダの両方が舞台になります。ベティ・ニールズらしい小児科の看護師と富豪で小児科医を主人公にしたシンデレラ・ストーリーです。このパターンはベティ・ニールズの作品の中心でしょうから(まだ,そう言い切れるほど読んでいませんが),安心して読める作品です。邦題の「看護日記」というところにちょっと興味を持って読みましたが,患者に対する治療の記録といったもので日記風に書かれたものではありませんでした。しかし,この物語自体がヒロイン自身への看護日記ではないのかと思い至りました。そんな意味で良い邦題だと思います。HQSP版の表紙にはオランダらしく風車とチューリップが描かれていますが,ヒロインの顔のアップがあり,茶色の目とやや黒みがかった灰色の髪の毛で若々しく意志の固そうなモデルが使われていて,ヒロイン,ハナの風貌をイメージしやすくなっています。本人は自分をたいした女性とは思っていませんが,ヒーローのファレンテインに言わせればとても美しいということになります。外見より内面の優しさと美しさ,仕事に対する情熱,人への気遣いなど真面目さなど,ファレンテインの屋敷の執事ヴィルリックが見抜いたとおりの女性です。俗物で敵役になるファンテインの婚約者ネリッサとの対比も巧みです。ファレンテインにもハナに対してそのように見えたのでしょう,登場人物目線の鋭さが見え隠れする作品です。


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