SSブログ

不思議な遺言状 [エマ・ゴールドリック]

SHALOCKMEMO1188
不思議な遺言状 And Blow Your House Down 1893」
エマ・ゴールドリック 飯田冊子




HQB-719
16.03/¥670/208p

I-1241
85.10/¥520/156p


 舞台:マサチューセッツ州サウス・ディアフィールド
ヒロイン:スーザン(セアラ)・アントニア・レベッカ・アンダーソン(23歳)/元マサチューセッツ総合病院小児科病棟夜勤看護師長,母は外科医,長兄ラルフ:州宝くじ協会会長,次兄ジム:薬品関係,三兄デイビッド:ダラス・カウボーイズの野球選手/153センチ
 ヒーロー:ジョン・フランシス・エングルウッド(歳)/マサチューセッッツ大学工学科助教授,農園主,電子工学工場共同経営者,電子工学技術者/190センチ,シワの深い顔,髪は黒,目は濃い茶色,わし鼻,眉は濃い,歯が輝くように白い。
 1923年生まれで2008年に鬼籍に入ったアメリカの作家エマ・ゴールドリックの1983年のデビュー作の訳本です。読んでみて,単なるデビュー作というだけでなく,ロマンスの全ての要素を詰め込んだ素晴らしい作品だと思いました。成長譚,復讐譚,ロマンス,そして冒険活劇。もうこれは,読まずに死ねないという感じの作品です。斜麓駆にとっては初めてのエマの作品でしたが,すでに新作が読めないということを残念に思います。本作の翻訳はエマの出版の2年後1985年にイマージュで飯田冊子さんの名訳で発表されました。エマは本名エマ・エリザベス・ジーン・サトクリフという長い名前で,プエルトリコで生まれました。1919年生まれのロバート・ゴールドリックと結婚し,エマ・ゴールドリックというペンネームで活躍したようです。赤十字の看護婦の資格を持ち,4人の子どもを育てながら,1980年ごろから作家を志し,1983年本作を上梓したようです。40作ほどの作品を残し,2008年85歳で他界しました。ベティ・ニールズが1910年生まれですから約一回りほど年下になりますが,ちょっと似た雰囲気があります。ニールズ作品がイギリスとオランダが舞台になることが多いですが,本作はアメリカ西海岸,しかも大都会ロサンゼルスやサンフランシスコではなく,小さな町が舞台になっており,そこに住むコミュニティーの人々との交流も生き生きと描かれています。
 さて,本作のヒロイン,スーザン(セアラ)・アントニア・レベッカ・アンダーソンは4人兄妹の末っ子,3人の兄がみんな190センチ以上あり,末弟デイビッドは2メートルを越す大男の野球選手,「小さなスーザン」が兄たちから可愛がられているのはたやすく想像できます。まさに「小公女」セアラという愛称どおり,愛らしい感じなのでしょう。初めはヒーローのジョンが16-17歳ぐらいの女の子と思ったのもうなずけるほど小柄です。153センチは日本女性ならそう小さいというわけでもないでしょうが,アメリカ人から見ればまさに子どもと感じられるのでしょう。近所のおばあさんセアラがシンディーおばさんと呼んでいた女性が亡くなり,セアラに遺産を残したというのです。持ち株会社の株式の15パーセント。それがセアラの運命を大きく変えます。株式の40パーセントずつをもつジョンと弟のロバート。ジョンはこの不思議な遺産受取人セアラの本名だけを頼りに,町を訪ねてきます。ちょっとアブラハム・リンカーンに似たジョンとの出会いは,ニューベッドフォードの海辺でコンタクトを捜しているセアラに声を掛けたことから始まります。やや滑稽な描写から始まるジョンとセアラの出会いから,すこしわくわく感が始まります。そして子どもだと思っていたセアラが実は娼婦ではないかとジョンが勘違いしたことから,始まり,兄の子どもを父親のいないセアラの子どもだと勘違いしたり,兄たちの仕事をギャング稼業のようにセアラがいたづらして紹介したため,ますます怪しげな女性だと思い込み,ジョンの勘違いを訂正しないまま母親を亡くした息子ジャッキーの世話をするために屋敷に連れて行ったりと,ジェットコースターのように物語が進行し,持ち株会社の工場で収益が上がらず工員たちの労働組合がストをするところに乗り込んでいったセアラが知り合いの会計士やボディガードたちと密かに行われているらしい窃盗事件を暴いていくあたりの冒険小説的なストーリーが展開していきます。一方でジョンとセアラの間に恋愛感情が芽生え,息子ジャッキーがセアラに臨時ママを依頼したりと,結構破天荒な成り行きに,読者の方もすっかり乗せられてしまい,わくわくしたまま終結にと向かうのです。その時のセアラの独白「だって問題は全部解決したのよ。ジャッキーの問題も,ロバートの問題も,ジョンの問題も。でもセアラの問題が解決していないんだわ。」という部分がさらに一波乱を予感させ・・・。
文句なし今年読んだ中でベストワンの作品です。もうこれはロマンス小説というよりエンターテインメントというべき作品でしょう。


タグ:イマージュ
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

シンデレラは似合わない [シャロン・ケンドリック]

SHALOCKMEMO1187
シンデレラは似合わない Back in the Headlines
Scandal in the Spotlight 3 ) 2012」
シャロン・ケンドリック 中村美穂





 原題は「主役に戻って」
 舞台はロンドン,トーチェスター伯爵家バレオ・ホール
ヒロイン:ロクサーヌ(ロキシー)・カーマイケル/元ガールズバンド「ロリポップ」歌手,ナイトクラブ「キットカット・クラブ」歌手,清掃作業員/青い瞳,ダークブロンドの髪
 ヒーロー:タイタス・アレクサンダー(35歳)/トーチェスター公爵/高い頬骨,茶色の髪,
 今は清掃作業員をしながら場末のクラブで歌っているロキシーですが,かつてロリポップというバンドのボーカルとして世界中の注目を集めヒットチャート上位を席巻した歌手でした。一方タイタス・アレクサンダーは,1年半前に父が亡くなり,トーチェスター伯爵位を継いだばかりでノーフォーク州のバレオ・ホールというマナーハウスを管理維持することになっています。遺産の管理をしているうちに,ロンドンの会計士マーティン・マレー名義のノッティング・ヒル・ゲートの高級住宅地にある最上階のフラットにかつてのスター,ロキシーが住んでいることを突き止めます。現在の職業は場末の歌手と夜は清掃作業員,そんなロキシーが,もともと家賃の高いロンドンでこんな高級フラットに住むだけの家賃が払えるはずがなく,きっとマーティン・マレーの愛人として囲われているに違いないと,フラットの追い出し作戦を開始します。清掃作業を終えて具合が悪くなり,悪天候の中やっとの思いでフラットについたロキシーは,自分のたった一つで全ての財産が入り込んでしまうスーツケースが廊下に出され,鍵も取り替えられていることに愕然とします。意識を失ったロキシーが次に目覚めると,そこは見たこともない場所でした。気を失っているロキシーを見つけ,タイタスが運んできたのです。数日間も意識を失っていたロキシーに,ナイトクラブからの解雇通知と,数日間無断欠勤したと清掃作業員も首になったことを告げる上司。自分がフラットを追い出したばかりにこんな最悪の状況に陥ったことに責任を感じ,タイタスは,ロキシーにある提案をします。数週間後に開かれる自分の盛大な誕生パーティまでに,スタッフとしてバレオ・ホールで働かないかという提案でした。バレオ・ホールの家政婦バネッサは,ロキシーをかわいがり,従業員の住む屋敷の近くのコテージで相部屋になったエミリーがかつてのロリポップの大ファンだったこともあり,安定した暮らしを始めたのでした。そして壮大な屋敷を舞台に,タイタスとロキシーのロマンスが次第に熱を帯びていきます。もう一日たりともロキシーと離れがたくなったタイタス。屋敷のスタッフやバネッサの目を盗んで逢瀬を重ねる二人。やがてパーティ当日,何でももっているタイタスになにかプレゼントしたいと,ロキシーはエミリーやスタッフたちとある企てをします。自らの才能である歌手としての実力で「ハッピー・バースデー」と歌のプレゼントを,なんと,アメリカ大統領とも関係があったとされる,あの有名女優のスタイルで行ったのでした。数日後のマスコミでその時の写真と,あれは新しいの伯爵の愛人かという記事が載り,ロキシーは屋敷を暗闇の中で去ることにしたのでした。「わたしは歌の夢を叶えるために働く臨時雇いの清掃作業員から,雇い主である貴族の秘密の恋人になった。まるでビクトリア朝時代お身分違いの愛人のように。」この言葉が,悲しいロキシーの気持ちをはっきりと示している一文です。「まただ,彼はまたしても特権を振りかざし,僕は重要人物で,君はそうではない,と言っている。彼はそうせずにはいられないのだ,根っからそういう人なのだ。」とタイタスとの別れを決意したロキシーの悲しく寂しい心情が,ぐっとくる場面です。この場面があるからこそ,本作に階級差に阻まれる悲しい男女の関係が見事に表されているのだと思います。
 イギリスのありがちな設定ですが,栄光と挫折,恋愛と別れ,そんなギャップの大きさが深みのある作品を仕上げているイチオシの秀作です。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

気高き愛人 [ジャクリーン・バード]

SHALOCKMEMO1186
気高き愛人 Uantamed Italian, Blackmailed Innocent 2010」
ジャクリーン・バード 早川麻百合





 原題は「自由なイタリア人,ゆすられた純情娘」
 舞台:ロンドン
 ヒロイン:サルマキス(サリー)・パクストン(26歳)/大英博物館研究員/ブルーの瞳,清楚な顔立ち,小ぶりの鼻,ふっくらした唇,ルビーのような長い赤毛/ナイジェル・パクストンの娘
 ヒーロー:ザック・デルッカ(35歳)/実業家,「デルッカ・ホールディングス(鉱業・製造業・不動産業・オリーブオイル等国際的複合企業)」経営,「ウエストウォルド・コンポーネンツ」買収/黒い髪,黒い瞳,195センチ,ローマの養護施設出身,元格闘技選手/冷酷で尊大で血も涙もない男との噂あり/元恋人ミラノのモデル,リサ
 目的を持って父のオフィスを訪れたサリー。そこで父に母の病院に見舞いに行くよう説得するつもりでした。浮気をしたあげく母が入院していても仕事だといって見舞いにも行かない父。それでもサリーの母は父をかばうのでした。それがさらにサリーの怒りに油を注いでいたのです。今日こそは,という思いのサリーは父の元を訪れたザックは目に入っていませんでした。一方,買収した会社で横領が行われていたことを調査するため,会社の財務部長ナイジェル・パクストンを訪れたザックは,受付で自分を見もしない美女に目をとめます。普通女性は誰しも自分を振り返るものだという思いがあったザックは一度も自分を見もしない女性に出会ったのは初めてでした。そしてナイジェルのオフィスで二人は顔を合わせます。サリーの自宅はボーンマス。父はすっかりロンドンのフラットで愛人と暮らしており,サリーを懐柔するために父は元自分がいたフラットをサリーに住まわせ,自分は別のアパートに住んでいたのです。父の会社では武器の部品を作っており,そんな会社に勤め,愛人を囲い,母の病気を一顧だにしない父にサリーは軽蔑の念を抱いていたのです。サリーをナイジェルの愛人と勘違いしたザックでしたが,娘だと知ってサリーを夕食に誘います。ザックに横領のことを見抜かれてはいないかびくびくもののナイジェルは,まるで娘を差し出すかのようにザックの機嫌を取るようにとサリーに頼むのでした。サリーは忙しいと誘いを断るのですがザックは諦めません。どうせ裕福なお嬢様で我が儘な娘だろうと思い込んだザックは週末も忙しいというサリーの返事を曲解します。週末は母のいるデヴォン州の施設で母と過ごすことに決めているサリーには,ザックの誘いに乗る時間はないのでした。何度も誘いをかけるザックを,サリーは父と同じ女性蔑視の男と思い込み,二人の溝は次第に広がっていきます。しかし互いに何か惹かれるものを感じ,気持ちと言動とはますます広がっていくのでした。このすれ違いが本作の大きなプロットになって行きます。サリーは敢えて,自分が大英博物館に勤めていることを知らせません。どうせ一度食事をするだけの関係で終わるだろうと思い,わざわざ知らせる必要がないと思ったのです。さらに母が療養していることも黙っています。女性に断られたことのないザックにしてみれば,サリーが忙しいと口実にして逆に自分を誘っているのだと勘違いしてしまいます。サリーの本名はサルマキス。ザックと食事をしているとき声を掛けてきた小学校時代からの友人アルジャーノン(アル)に声を掛けられ,サリーはザックの誘惑を断るきっかけにアルを利用しようと考えます。アルも,ザックが冷酷で女性を誘惑しては捨てるというマスコミの情報を元に,これに協力するのですが・・・。ザックとの食事で,少しずつ打ち解けてきたサリーは「ザックの野性的な魅力に引き寄せられ,まるで明るい炎に吸い寄せられる蛾のように」ザックに惹かれている自分の反応に驚き,でも将来はないと,その気持ちを打ち消そうとします。ザックの誘いに積極的な姿勢と,冷たい態度と二重の反応を示すサリーにザックもこれまでの女性とは違う魅力を感じてしまうのでした。父の横領がはっきりし,それを脅しの材料として,サリーに愛人契約を申し出るザック。しかし何日か過ごすうちに,サリーが単なるゴージャスなワガママお嬢さんではなく,きちんとした学位をもつ大英博物館研究員という肩書きを持っていることや,母が入院していて週末はそこで過ごさなければならないということを少しずつ突き止め,やがてサリーに対して尊敬の念と愛を感じるようになって行くのでした。サリーもまた,冷酷だと思っていたザックが自分に対して接する態度が次第に自分のことを考えてくれていることや,男性的魅力に引き寄せられる自分の気持ちを偽ることができないと思い,ついにはザックを愛してしまったことに気付くのでした。しかし二人の間には父ナイジェル告発という問題を挟んだ愛人契約があり,それが互いの愛を告白し合う妨げになって行きます。そしてサリーの妊娠・・・。二人はこれをどう乗り越えていくのでしょうか。
 邦題の「気高き愛人」は蓋し名訳だと思います。すれ違いもの,勘違いものは,結構好きですが,ストーリーの面白さとヒーロー,ヒロインの設定にも作者の筆力が問われるジャンルだと思います。そんな意味では本作は成功例と言えるのではないでしょうか。オススメです。


タグ:ロマンス
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。